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短編集 ~一息~  作者: つるめぐみ
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競争

 ある村に、自分こそが村一番の俊足だと自信を持っているウサギがいた。

 彼はスピードが全てだと信じて疑わなかった。足が遅い者に存在価値はないと考えていたのだ。

 そんなウサギの前に、一匹のカメが姿を見せた。麗らかな日差しの中で一生懸命に歩いているカメを見て、ウサギはからかってやろうと思いついて駆け寄った。

「カメさん。ひとつ俺と駆けっこしてみないかい?」

 ウサギから申し出を受けたカメは驚いた様子を見せると、首を伸ばして鼻を鳴らした。

「いいけど……僕のほうがはやいと思うなあ」

 競争に関して絶対の自負を持つウサギは、カメの言葉を聞いて苦笑いをした。

「よし、じゃあ競争しようか」

 二匹の思いは互いの心の中でぶつかり合う。言葉少なく二匹はスタート地点に並んだ。

 しかし、どちらが一番になるかなど、誰が見ても明らかだろう。

 ところが、カメを応援しにきたカメ一家がウサギを笑った。

「彼は僕たち一族の中で一番はやいんだ。あのウサギ……恥かくだろうね」

 地獄耳とも言われていたウサギには、カメ一族の中傷がはっきりと聞こえた。

 どんなにこのカメが速かろうと、ウサギがカメに負けるものか。

 恥をかくとまで言われたら、手抜きは絶対にしない。完膚なきまで叩き潰してやる。

 完全にプライドを傷つけられたウサギは、スタートの合図が響くとともに全力で駆けた。

 突き放したと確信してウサギが振り返ると、カメはスタート地点で何やら準備していた。

 ――が、そのよそ見がウサギの計算を狂わせた。目の前にウサギの子供が飛び出してきたのだ。とてもではないが、このスピードではとまれない。

 鈍い激突音が響くと思われたその時、コース上に一陣の風が吹いた。

 急ブレーキをかけたウサギは、子供とぶつかっていないことに気づいて顔をあげる。

 彼の目の前には、信じがたいことにウサギの子供を抱えて飛んでいるカメの姿があった。

 しかも普通ではない。四方から火炎を噴出しつつ回転しながら飛んでいる。

 呆然とするウサギを抜き去ったカメは、ゴール地点に到達すると着陸した。

 慌ててウサギはゴール地点に駆けこむが、勝負は見えていた。よく見るとスタート地点にいたはずのカメ一族たちの姿もある。

「言い忘れたけど、僕たちの祖先は北極の氷の中で眠っていた古代の怪獣らしいんだよね。名前は『ガメラ』っていったかなあ」

 カメの話を聞いたウサギは目を丸くした。馬鹿にしたカメにそんな秘密があったなんて。

「くそっ、見かけに騙された」

 ウサギはがっくりと肩を落とすが、カメは彼に向かって笑いながら言った。

「そうかな、僕は勝てたけど、現実では違うんじゃない? 日本の干支って動物たちの競争順位で決まったみたいだよ」

こちらの作品は、2011年の大晦日に投稿させていただいた作品です。

この後に、

 ウサギの肩をポンと叩いたカメが最後に告げた。

「2011年。兎年! あけましておめでとう!」

と終わる一文がありました。


今年は申年ですね。申酉戌ときて、何かを思い出すのは私だけでしょうか。

あの物語の三匹が仲良くゴールしたとしか思えなかったりします。

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