サンドイッチとまごころを
太陽も昇り街並みを暖かく照らす昼下がり。
そんな暖かな場所とは裏腹に、涼しい風が吹く路地裏で未だ夢の世界を堪能している少女の元に、こつ、こつという地面を叩く硬い音が規則的に、ふわりと吹く風にのり近づいてくる。
その足音はすやすやと寝息を立てる少女の前でぴたりと止まり、足音の主は少女の顔を覗き込むようにしてゆっくりとしゃがみ込み、手荷物と腰にぶら下げていた何かをベンチに置くと、音の主は少女の頬にそっと手を触れ、そして。
「おはよう、随分といいご身分だな。」
柔らかな頬をぐにいと摘み上げた。
「いっ、いひえ?あ、おはようベリアって痛ひ痛い!」
突然の出来事に目を丸くし声を上げるネフィアの頬を、ベリアは両頬に手を添えぐにぐにと回したり、ぷにぷにとつついて弄びながら言葉を続ける。
「あれから結局全部食べ切ったんだがな、女将さんの料理はやはり絶品だな、食べ終わってみるとまだ入んじゃないかという気すらしてしまうよ。」
「うあーほっぺの形が変わるううう。」
「頬だけで済む分我慢しろ。」
「……ああ、ベリアはお腹の形がああ冗談だよ痛いつねらないでごめんってええ……。」
少女の柔らかな頬の感触をひとしきり堪能すると、ベリアはどこか満足気な様子で頬から手を離す。
「まあこれくらいにしといてやる。」
「うあーまだ引っ張られてる感じが……。」
「気のせいだ。」
「ぐぬぬ……。」
恨めし気な表情でベリアを見つめながら頬をさするネフィアの膝の上に、ベリアは小さなバスケットをとんと置き、自らもベリアの隣にすっと腰を下ろす。
「これは?」
「……。」
「……?ああ、開けてみろって事?」
頷くベリアに、ネフィアは一体何かとバスケットを開く。
「……あー。」
バスケットの中身を取り出しあははと苦笑を漏らすネフィア。
その両手には「ネフィアちゃんに」、というプレートが添えられた、小さめのサンドイッチが2つ、握られていた。
「『あの子今日パンケーキしか食べてなかったわよね、お腹空かせちゃってるんじゃないかしら。』」
「……あはは、おばさんわざわざ作ってくれたんだね。」
「出かける前に呼び止められてな、『ベリアちゃん、もしネフィアちゃん見つけたらコレ、渡してあげてくれるかしら。』……だそうだ、まったく女将さんには頭が上がらないな。」
「まったくだね。」
ネフィアはそう言って小さめのサンドイッチを真ん中で2つに裂き、片方をベリアへと差し出すと、残った半分を口へと運ぶ。
「うん、おいしい。」
「美味しいな、……というか女将さんが作ると何でも美味しく感じるよな。」
「それすごくわかる。」
そうして向かい合って苦笑を漏らしながらも、二人はサンドイッチをぺろりとたいらげ路地から流れる涼しい風に、しばしの間浸っていた。
涼しくも穏やかな風に、二人の間を静かな時間が包む昼下がり。
(なるほど、これは確かに眠くもなるな。……ん。)
おもむろにすっと立ち上がり、柔軟と目覚ましがてらに首や腕ををくるりと回すベリア。
そんなベリアに、そういえば、とネフィアが声をかけた。
「そういえばベリア、どうしてこんなとこに?」
「ん?……ああ、ちょっとした仕事さ。」
「仕事?ああ、だからこれ持ってきてたんだね。」
そう言うとネフィアは合点がいった、という表情でベンチに置かれていた、ベリアの腰元より少し長いくらいの棒状の何かをほらと手渡す。
「ん、助かる。」
「それじゃあ頑張ってね、あ、先に報告しに行っとこうか?」
「いやいい、どのみち後で向かうつもりだったしな。」
「そっか、それじゃあわたしそれまで待ってようかな。」
受け取った棒状の何かを腰元に差し、ベリアは右手をぐっと力強く握りしめると、肩を下ろしゆっくりと息を吐く。
「あ、ベリア。多分あれでしょ?」
そう言いながら指を指すネフィアの視線の先には、路地の向こうから談笑しながら歩いてくる男性達の姿があった。
「ああそうだな、何事も無く事が進めばいいんだがな。」
「ないない、第一そんな物騒な物持ってきて、どうなるか目に見えてるじゃん。」
「まあそれもそうなんだが、……それじゃあ行ってくる。」
向かいから歩いてくる男性たちに向けこつこつと足を進めて行くベリアに、ネフィアは聞こえないようにぽつりと呟く。
「……何事もなくーなんて。」
向かってくるベリアに気づき談笑をやめて足を止め、怪訝そうな表情でベリアを見つめる男性達に、ベリアも少しの距離を保ったまま足を止め口を開いた。
「そこの方々、少々お話お伺いしても?」
「……少なくとも、そんなに嬉しそうに言っても説得力ないよ。」
そんなベリアの姿にはあと溜め息をつき、ネフィアはまたごろりとベンチに寝転がるのだった。
挿絵描いたりして遊んでたら完全に投稿忘れてました。




