かもくにもぐもぐ
「はいお待たせ!二人ともたっくさん食べるんだよ!」
席に着きしばらくの間朝食を待っていた二人の前に運ばれて来たのは、控えめに考えても2人前以上はあろうという、言うなればコース料理を一度に全て出しきられたような料理の数々だ。
初めは「今日は少し量が多めだな。」などと言っていたベリアは勿論の事、
ネフィアまでもがぽかんとした表情で机一杯に並べられた料理に目を丸くしている。
「ええと、女将さん。」
「ごめんねえ、おばさんちょっと張り切りすぎちゃって……。」
「張り切り……いや流石にこれは限度が……。」
引きつった笑みで、そう言いつつも先ずは一口、と一番近くにあった根菜の煮物を口に運ぶベリア。
薄すぎず濃すぎない絶妙な味付けの根菜は口の中でほろりと崩れ、ほんのりと香る塩の風味に思わず顔を綻ばせてしまう。
(ああ、味はやはり一級品だ……。)
頬を緩ませ黙々と食事を続けるベリアの様子に、続いてネフィアも近くにあったパンケーキへと手を伸ばす。
ふわふわとした柔らかな生地をさくりさくりとナイフで器用に切り分け、その一欠片にフォークを突き立て口へと運ぶ。
見た目通りのふわりとした食感に、生クリームの程よい甘さとメレンゲの香り。
口の中でとろりととろけるもしつこ過ぎずにさっぱりと消えるその甘みに、ネフィアはたちまちその味の虜となっているようだ。
そんな様子を横目で見つつ、口へと手を当てながらベリアは口を開く。
「やはり女将さんの料理は本当に美味しいです。」
「味には自信があるからね、たあんとお食べよ。」
「はい、是非頂きます。」
黙々と食べ進め、既に当初の半分程の量を食べ切ってしまっているベリア。
(……どうなる事かと思ったが、これならなんとか全て食べ切ってしまえそうだ……。)
そんなある種の余裕があるベリアとは裏腹に、パンケーキを食べ終え次の皿へと手を伸ばそうとしていたネフィアの手が突然止まる。
「……?ネフィア?どうかしたか?」
「……あっ、わ、わたし、ちょっと外に遊びに行ってくるね!」
「あらネフィアちゃんもういいのかい?まだ沢山あるんだよ?」
「う、うん!わたしもうお腹いっぱいだよ!美味しかった!」
「あっはっは、そう言ってくれると作った甲斐があったってものだよ。」
「そ、それじゃわたし行ってくるね!ごちそうさま!」
「あっ、おい。」
言うが早いかフォークを皿の上にかちゃんと置くと、ネフィアはとんと椅子から飛び降り、スカートをひらひらと翻しながら食堂を飛び出して行ってしまった。
「なんなんだ一体……。」
腑に落ちないと言う表情を浮かべながらも食事を再開するベリアの前に、とんとんと言う続いた音と共に、先ほどまでは存在しなかった筈の料理が、先ほど運ばれて来た量と同じくらいの量の皿が次々と並べられ始めていた。
文字通り『沢山』の皿を並べ、食べ終えた皿を回収していく女性へと視線を送る唖然とした表情のベリアに、女性は苦笑を返す。
「いやあ、張り切りすぎちゃってねえ……。でもまあ、味には自信があるから!」
そう言って軽い足取りで厨房へと消えていく女性に、乾いた笑い声をあげるベリア。
「……覚えとけよ、ネフィア……。」
誰にも聞こえないようにぼそりと呟くベリアには、「ゆるして。」と笑うネフィアの声が何処からか聞こえ、いち早く宿を飛び出し広場に飾られた小さな花を眺めていたネフィアには。
「あっ、花散った……。」
自分に対し呪詛を紡ぐベリアの声が聞こえた気がした。
もっと食事描写盛り込みたかったけどお腹が空いてくるので諦めました。