別れは唐突に
先程までの喧騒は嘘のように止み、金色の髑髏型のカンテラの灯りだけが二人を照らす、少し狭めの石造りの通路。
二人がスーツ姿の男性に案内され通った扉の奥は、二人が発する音以外何も聞こえず、はっきりと世界が変わったかのような違和感すら感じ、どこか異質な空気を感じてとれる。
「ここもう少し短くすればいいのにね、なんかじめっとしてて空気悪いしさあ。」
「そうか?私は結構好きなんだが……。」
「えー、どこがいいのさ。」
「んー……、暖かみがあると言うか、落ち着けるというか……。」
「……わたしにはこの悪趣味なカンテラのじわっとした熱さしか分からないや。」
「……まあ確かにこれは私もどうかと思うが。」
所々金メッキの剥がれた髑髏のカンテラを指でとんとんと叩くネフィアを諌め、ベリアはぼんやりと薄暗い道を、こつこつという足音を響かせながら進んで行く。
「そういえばなんだが、ネフィアは静かで暗い所が好きだろ?そういう意味じゃここは結構ネフィアに合ってるんじゃないのか?」
くつろげるかと問われると困る所がだがなと苦笑するベリアに、ネフィアはあからさまに嫌そうな顔を向け、手を上にあげやれやれだとわざとらしくため息を吐いた。
「わかってないねーえ、こんな息苦しい場所はおことわり、長居してたら死んじゃうね。」
「毎回来るたびに嫌な顔してるもんな。」
「呪詛まみれの通路なんて普通はちょっとくらい嫌がるって、むしろ平気な顔して歩くベリアの気が知れないよ。」
「……呪詛とかあったのか、結構物騒だな。」
「……気付いてよ、そこらかしこにびっしりって感じだよ、しかも結構えぐいやつが。……ああ見てるだけで鳥肌立ってきた。」
「そこまでなのか……。」
「……ベリアは気を張ってない時はほんとなんというかアレだよね、別にいいけどさ。」
心なしか壁に触れないように歩くベリアを、早く歩いてよと後ろから急かし急かされながら、二人はまた少しの間歩き続けた。
「ん、そろそろかな。」
唐突にベリアが声を出す。
「こんな所でよく道なんてわかるね。」
「ん、よく見ると案外違うぞ、ほらこのカンテラとか分かりやすいな。」
すぐ近くにあったカンテラを、他の物と比べるように交互に指を指すベリア。
その様子に、ベリアが指差したカンテラへと顔を近づけ、ネフィアは疑問符を浮かべる。
「……わたしには他のと何が違うのかわからないんだけど……。」
「今までにぶら下がっていた物より綺麗だろ?あの人はどうしてか此処まではカンテラや床を手入れしてるんだよ。」
ベリアの言葉にふうんと鼻を鳴らし、ネフィアは先ほどのカンテラを指で擦ると、指についた埃に嫌な顔をしながら手を叩く。
「潔癖とまでは行かなくても、せめてもう少しくらい気を遣ってもバチは当たらないね。」
「ははは……。」
「変な所で几帳面な癖にね、というか話があるならあっちから来ればいいのにさあ。」
「まあ向こうにも事情があるんだろう、……おっと、噂をすればだ。」
そう言って立ち止まるベリアに、ネフィアも続くように立ち止まる。
少し開けた通路で、二人が横に並べる程の広さのようだ。
二人の目の前には、煤汚れた通路に似つかわしくない、カンテラの灯りを受け真白に光る、石造りの壁が「そこ」にはあった。
「……で?今回はどうやって入るのさ。」
さらさらとした白い壁を訝しげに睨むネフィアに、ベリアは首を傾げる。
「さあ、見当もつかないな。」
「……ほんとあの人は面倒くさいことするよね、遊びに付き合ってる暇はないっての。」
「……ネフィアはあの人に厳しいよな、確かに冗談が過ぎるが、そこまで毛嫌いする程ではないと思うんだが……。」
周囲を見回し、入り口を探りながら、ベリアに言葉にネフィアは応える。
「別に普段はそこまで嫌いじゃないよ、たまーにこう言うよく分かんない事したり、で、そのこう言うよく分かんない事がすっごく面倒くさい所とか後は……おっ。」
白い壁に目を凝らさないと気づかない程の突起を見つけ、周囲の埃を払い落とすと、かちりと突起を押し込む。
するとがちゃんという何かが外れたような大きい音が一度響き、部屋の所々から軋むような音が響きわたる。
そして二人が立っている床に、かしゃんと言う音と共に大きな穴が空いた。
「そうだね、こう言う人を小馬鹿にしたような原始的な仕掛けを恥ずかしげもなく仕掛けてくるところとかが死ぬほど嫌いだよ。」
「なるほど、少し分かった気がする。」
「でしょ。」
髪を逆立て暗闇へと落ちていく二人。
「会ったら頭から思いっきり蹴り飛ばしてやろーっと。」
底も見えない暗闇へと落ちていくネフィアは、普段となんら変わらない呑気な声で、ぽつりと呟くのだった。
蝉の鳴き声が嫌いです




