火トカゲさんと愉快な仲間たち
使い魔は、契約者の危機には、自然と召喚されるものらしいが、それでもエリスの部屋の近くが僕の部屋として、あてがわれた。
エリスが僕に約束した通り、特に何をする事もなく、絢爛豪華な部屋でゴロゴロ過ごし、豪華な食事を王族であるエリス達と食べる。
そんな怠惰な毎日を送る。
怠け者な僕には、最高の日々。
でも‥‥
《おぃ!
流石に俺様も、もう我慢ならん。
修行するぞ!》
唐突に、火トカゲさんが言い始めた。
「えぇっ、マジですか?」
さも面倒臭いと言った風に言うと
《お前‥‥焼かれたいか?》
う~、脅すんですかぁ。
やりゃあ、いいんでしょ。
やりゃあ‥‥
「分かりましたよ。
もう‥‥」
ブツブツ言いながらも、火トカゲさんを頭の上に乗せて、部屋を出る。
「修行って言ったら、筋トレ?それとも、火トカゲさんとの模擬戦?」
僕が尋ねると、予想外の答えが返ってきた。
《まずは、散歩だ。》
火トカゲさんに命じられるまま、街の外に出た。
何故かエリスも一緒に。
相変わらず火トカゲさんは、僕の頭の上や、肩の上に乗っかってる。
お気楽なヤツめ。
そんな風に見ると
《力あるモノが、力なき者を従えて何が悪い?》
僕の気持ちを見抜いたのか、目を閉じ、寝た様に見えた火トカゲさんが、そう言った。
はぃ。その通りです。
テクテクと歩く事30分。
エリスと会った場所に近い所まで歩いて来ていた。
そこから、火トカゲさんが急に、ナビり始めた。
《その木の所を右に。》
《あの石を左。》
その指示に従い、黙って歩く。
だって、逆らって口論しても負けるんだもん。
「あの~‥‥
どこまで行くんですか?」
黙って歩く僕にエリスが、話し掛ける。
僕に聞くなよ。
僕が、火トカゲさんを見ると、ヤレヤレと言った風にしている。
ちょっと可愛い。
《行けば分かるから、黙って歩け。》
僕は、そのままをエリスに伝えて歩き続ける。
すると大きな泉が見えてきた。
城を出てから、1時間以上は歩き詰め。
これが修行って訳でも、ないでしょに。
《う~ん‥‥
まぁ、ここなら呼び掛けに応じるかもな。》
火トカゲさんが独り言の様に
「ぎゃわぁぁ」
と鳴いた。
「ぎゃう、ぎゃわぁ、ぎゅわぁぅ。」
《おぉ~い。
ここなら、聴こえんだろ?
コイツの魔力で、コッチに出て来いよ。》
火トカゲさんが、鳴き声を発すると
〔えぇ~っ。
だって、アナタの、その姿って中途半端じゃない。〕
火トカゲさんと出会った?時と同じで、どこからともなく声がする。
今度の声は、可愛らしい女の子の声。
勿論、今回もエリスには、聴こえてない様子。
つまらなさそうにしてる。
《お前は、その位が、ちょうどいいんだろ?
アノ姿を嫌がってたんじゃないのか?》
火トカゲさんは、知り合いと話す様に、声の主と会話する。
〔そうなんだけどぉ‥‥
今更、ソッチに行って何か、いい事あるの?〕
女の子の声は、火トカゲさんに答える。
僕の魔力使うんでしょ?
少しは、僕の事も気にしてよなぁ。
《コイツは、面白い。》
火トカゲさんは、即答で返した。
‥‥‥
少しの無言の後
〔ねぇ、アナタ?
面白いの?〕
「ふぇっ?」
声だけの主に、突然問い掛けられ気の抜けた声が出た。
〔ふふっ。
本当に面白いのかもね。
じゃあ、アナタの魔力戴きます。〕
その声の後に急に脱力感。
そう言えば、火トカゲさんの時も、そうだった気がする。
「しゃぁ~‥しゅぅぅ。」
〔ふぅ~。
アナタの魔力って、密度の割に少ないのね。〕
声‥‥鳴き声か。
それがした方を見ると、蒼い綺麗な蛇が足元に頭をもたげて、鳴いていた。
声の主?
声からして、可愛い女の子を想像したのにぃぃ。
〔あらっ、失礼ね。
今の姿は‥‥〕
「ゴメンナサイ」
火トカゲさんと同じ愚痴を言われそうだったので、蒼蛇さんの言葉を遮って謝った。
〔分かれば、いいのよ〕
優しい蒼蛇さんは、火トカゲさんの反対側の肩までスルスルと、はい上って来た。
ちょっと気持ち悪い様な、気持ちいい様な‥‥
ちょっと冷たい尾を僕の首に回し、落ちない様に体を安定させている。
左肩には、火トカゲさん。
右肩には、蒼蛇さん。
何なんでしょ?
この姿は。
‥‥‥
まぁ、いっかぁ。
火トカゲさんも蒼蛇さんも、僕的に結構可愛いし、僕もお気に入りだし。
〔よろしくね。〕
蒼蛇さんは、楽しそう。
楽しいのが、一番だよね。
両肩のマスコット?を乗せたまま、また城へ戻り始めた。
エリスは、爬虫類系が苦手なのか、僕との距離が少し遠くなった気がする。
はぅぅ。
エリスは、何だか好きになれないけど避けられてる感も、かなりイヤ。
片道1時間を掛けて戻るのも飽きたなぁ。
蒼蛇さんに魔力取られちゃったみたいだし、凄く疲れてて歩くのイヤだな。
「なぁ、誰か魔法で城に、びゅ~んっての使えないの?」
僕は、立ち止まってエリスや火トカゲさんと、蒼蛇さんに聞いてみた。
《転移の魔法は、あるぞ。
でも、お前が思っている以上に難しく、条件も厳しいぞ。
使ってみるか?
俺様と蛇のヤツがいるから、何の準備もない今なら成功する確率は、4割って感じだな。》
お強そうな、お二人揃って4割って……
却下だね。
でも
「失敗したら、どうなります?」
一応聞いてみる。
〔そうねぇ、 軽いのから。
池に落ちる。
半身が埋まる。
異次元から、抜け出せない。
異次元で、他の生物や物体との融合。
まぁ、簡単に言うと、そんな感じ。〕
怖い事をサラッと仰る蒼蛇さんは、やっぱり楽しそうにしてる。
蒼蛇さんは、女王様キャラっぽい。
本物の女王様に、女王様キャラの爬虫類。
先が思いやられるってか、ため息しか出ないや。
色々考えながら、4割の成功率に掛ける程のギャンブラーでもないから、歩き続ける。
もちろん休み休みだけどね。
〔んもぅ、だらしないんだから。〕
蒼蛇さんは、ご立腹だけど疲れてクタクタなんですもの。
「ごめんなさい。」
口に出して謝ると
「えっ……気にしませんよ。」
エリスが答える。
イヤっ、キミに言ったんじゃないんだよ。
まぁ、いいけど。
「さぁ、行こう。」
これ以上、蒼蛇さんの気分を損ねない内に歩きだす。
そうこうしてる間に、そろそろ街の外壁が見えそうな場所にソイツがいた。
木々の間に細い獣道。
そこに、いる。
茶色のゴワゴワした毛で、その毛が泥などで汚れていた。
「ウルフ系の亜種ですね。」
冷静に解説するエリス。
その様子を見る限り、弱い獣なんだろう。
慌てた様子がない。
「弱いんでしょ?
ちゃちゃっと倒すなり、威嚇して逃げさすなりしてよ。」
エリスに言うと
「えっ?
弱くないですよ。
少なくとも私の魔法は、当たらないと思います。
だって、先日のアレ……」
そうだ。
エリスって、魔法音痴なんだ。
忘れてた。
じゃあ、どうして、そんなに落ち着いてんの?
アイツ……明らかにお怒りですよ。
だって、グルグルと喉を鳴らしてんじゃん。
「じゃあ、何で、そんな落ち着いてんの?」
僕の問い掛けに
「だって、使い魔さんなんですから、何とかしてくださるんでしょ?」
エリスは、事も無げに言うけど、どうしろって言うんだよ。
その時、獣と目が合った。
うわっ。
そう思った時には、疾走してくる。
一瞬で目前に迫るソイツは、僕の知る犬や狼より、明らかにデカい。
熊みたいなデカさで、このスピードって、反則だよ。
ヤバい。
牙を剥き出しに、襲い掛かろうとしていたソイツに向け
「きしゃぁ。」
〔控えよ。〕
と静かに蒼蛇さんが威嚇。
ビクッと体を反応させ、急ブレーキをかけた様に止まる熊狼。
熊狼の目線の先は、蒼蛇さんの筈なんだけど、蒼蛇さんが肩に乗っかってるから、僕が見られてるみたいに感じる。
こぇぇよ。
「ぐがぁぁぁ。
うおぉぉぉぅぅぅ。」
(腹減ってんだ。
その食い物置いてけ。)
熊狼が蒼蛇さんに言ってる様子。
ゆっくり横を見ると、肩の蒼蛇さんと目が合う。
食い物って、僕とエリスっぽいね。
だって蒼蛇さんが、また笑ってんだもの。
はぅぅぅ。
僕らは、美味しくないですって。
そんな焦る様子を見て、楽しんでる様子の火トカゲさんと蒼蛇さん。
エリスはと言うと、平和な顔してやがる。
どうしよX2?
パニクってる間にも熊狼は、何か喋って(鳴いて)るけど、頭に入って来ない。
だって、この世界に来てからというもの危機ばっかり。
しかも命の危険。
これで冷静なヤツは、いないでしょ。
〔本当に面白いコね。
これだけの危機なのに、魔力の動きもないのね。
そろそろ、イジワル止めて助けてあげるから。〕
蒼蛇さんは、イジワルく言うと
《なんだ。
もう少し楽しむのかと思ったのに。》
火トカゲさんは、残念そう。
苛立つ熊狼。
「ぐわぁぁおぉぉ。」
(全部纏めて、喰らってやる。)
当然のごとく 襲い掛かってくる。
〔それ以上近付くなら、私がアナタを……〕
それだけを言うヒマしかなかった。
それでも近付く熊の様な狼を水の針が襲う。
細く鋭い形状の針は、全身を刺し貫きは、しているが血の一滴も出ては、いない。
??
蒼蛇さんを見ると
〔ツボって言うの?
命まで奪う事ないから、動けなくしたの。
私が少し離れたら、針が水に戻って動ける様になるわ。〕
言葉?は、キツいけど蒼蛇さんは、優しいね。