異世界と魔法少女
「ドコって、【グラン大陸】の西の果て【サイノス平原】の近くの森ですけど。」
少女は、しれっと言うが聴いた事もない。
やっぱり異世界パターンね‥‥
半ば諦めムードで
「どうやら、僕って異世界人みたいなんです。
お願いだから、何とかしてよ。」
泣き落とし。
実際には、泣いてないけど。
「‥‥
分かりました。
やってみますけど、期待しないで下さい。」
描き掛けの魔法陣の所々を描き直しつつ、描き上げていく。
魔法陣は、すぐに完成した様で
「その中央に立ってて下さい」
僕が魔法陣の中央に立つと、少女は何かをつぶやき始めた。
「$#%&\@*‥‥」
聴いた事ない言葉。
でも意味は、何故か理解出来た。
要約すると
(間違えたから、帰っていいよ)
‥‥なんじゃそら。
でも少女の呪文は途中から、おかしな方向に。
大地の精霊やら、時には『出てこい』的な言葉も混ざってる気がする。
コイツ‥‥マジで魔法音痴なのかも。
(絶対ムリだわ。)
諦めかけた時
―――パチッ、パチパチッ――
あの時の音が後ろからする。
あの時とは違い期待を込めて、振り返ると……
黒い金属製ではなく、木製の門。
(何か違うくないですか?)
僕の思いも虚しく、その門が開かれようとしている。
―――きぃぃぃぃ――
木の軋む甲高い音。
扉が開くと 直ぐに何かが飛び出してきた。
「キィキィ。」
小さな緑のソイツは、動物の様な鳴き声を出しながら、辺りを飛び回っている。
一匹のソイツじゃなく‥‥3匹のソイツらです。
訂正します。
したくないけど。
明らかに嫌な感じ。
額に手を当て
(やっちゃったぁ)
的な仕草の魔法少女。
コイツ‥‥ホントに嫌いだわ。
でも、そうは言ってられないので、近くにあった枝を拾って、少女のーー後ろに。
「ちょっと‥‥
か弱き女の子の後ろに行くって‥‥」
顔だけを僕に向けた。
「前っ!前っ!」
そんなの、お構い無しに叫んだ。
もう目の前まで、迫っている。
魔法少女は杖をかざし、また何かを唱える。
「&\@%&\*‥‥」
日本語訳
(風の精霊さん、カマイタチお願い)
すると杖の近くが、少し変化。
すぐに
―――シュンッ――
と音が3回鳴ると、空気の塊?の様な物が3匹に飛んで行く。
「おぉっ、なかなか。」
感心していたが、あっさり避けられた。
‥‥‥
「あの~‥‥言いにくいんですけど、私の魔法の中で、今のが一番早いんです。」
‥‥‥
つまり、アレが当たらないと言う事は、他も当たらない。
と言いたいの?
はぁ~‥‥こりゃアウトだわ。
雑魚キャラ即死パターン。
もしくは……
勇者登場?
期待を込めて、周りを見るが人影ゼロで、幸運が舞い込む様子もない。
「何を、よそ見してるんですか!!」
魔法少女は、軽く苛立つ。
(って、キミが出したんだよ?)
と心の中で、軽くツッコミを入れつつ状況を再確認。
さっきの魔法が効いたのか、警戒して距離を取っている3匹。
お互い睨み合いを続ける。
緊張感が高まる。
(極度の緊張感の中にいると、疲れ方もハンパないな。)
息が詰まりそう。
勇者が登場しないなら、俺勇者パターン‥‥
違うよなぁ。
それに勇者になんて、なりたくないし。
ウダウダと考えていると、痺れを切らした1匹が
「ぎぃぃぃ。」
と叫びながら、飛びかかってきた。
「えっ!?」
(僕‥‥分かっちゃったかも。)
どうやらコイツらは
(早く、食い物よこせ!)
みたいな事を言いながら、飛びかかってきてる。
「まぁ、待てよ。
食い物なら、珍しいのやるから。」
通じるか分からない。
でもコイツらの言葉なんて、話せる訳ないので、普通に日本語で話してみた。
‥‥‥‥
動きを止めて、不思議そうな顔をしている緑のチビ達。
どうやら、通じたみたい。
「ほらよっ。」
食べようと持っていたチョコレートを5つ投げ渡す。
緑のチビ達は、不思議そうに眺めてる。
最後の2コのチョコレート。
1つを魔法少女に渡す。
「コレ何ですか?」
魔法少女まで、不思議そうに眺めてる。
(仕草が同じって 同レベルかよ。)
周りのチビ達に、よく分かる様に包み紙を開いて口に放り込む。
「はぁぁ~癒される。」
チョコの甘さは、この世界でも格別の味です。
緑のチビ達と魔法少女は、同じ様に包み紙を恐る恐る開き、チョコを口に。
‥‥‥
「ぎゅぁぁぁ。」
「おいしぃぃぃ。」
緑のチビ達と魔法少女。
ほぼ同じに同じ感想。
やっばり同レベルだね。
魔法少女の襟元を掴むと、ゆっくりと後退り。
(逃げるよ。)
静かに距離を取る。
「ぎゃぁ、ぎゅぁ。」
緑のチビ達が会話し始めた。
(あと2コあるぞ。)
(俺が食う。)
(俺もだ。)
(お前らには、やらない。
俺のモンだ。)
訳すと、こんな感じ。
距離を取りながら観察。
その内に仲間割れを起こして、3匹が同士討ちを‥‥
残ったのは、1匹。
う~ん‥‥1匹なら、倒しておきたい。
勇者には、なりたくないけど平和に暮らすには、最低限のレベルも必要だしね。
でも怖いから、その考えは速攻で却下。
逃げるに限るよ。
ある程度、後退りで距離を取れたので、走って逃げようとした時に緑のチビと目が合った。
「ぎゅぁ、ぎゃぁ、ぐゅぅ!!」
(もっと よこせ!!)
‥‥欲深い。
「もう、ねぇよ。」
ちょっとイラっとしながら、チビに言うと。
「ほらっ!走んぞっ!」
魔法少女の手を掴んで、走り出す。
魔法少女は、メチャメチャ脚が遅い。
コイツ嫌いだぁ。
あっと言う間に追い付かれた。
いくら嫌いで、命が掛かっていても、女の子をほっといて、逃げる気には、なれない。
「やるしかないのか?」
また近くの棒を拾って、構える。
剣道とか、習っとけばよかった。
構えた棒先が小刻みに震える。
(何で僕なんだよ。)
泣き言が頭の中をグルグル。
また、ゆっくりにならないかなぁ。
でも、そんな期待は、あっさり裏切られ、緑のチビの爪に引っ掻かれ、腕から血が流れる。
「痛ぁぁぁぁ。」
傷は、大して深くないのは分かる。
でも痛い。
テンション下がるなぁ。
すぐさま、襲い掛かってくる。
多分、気付いたんだろう。
僕が雑魚キャラだって。
(はぁ‥‥今度こそ終わりかも。)
《お前の魔力を俺にくれ。》
どこから、ともなく声が聴こえる。
幻聴?
必死に避けながら。
「それどころじゃねぇよ!!」
叫ぶ僕。
《お前の魔力を俺にくれたら、力を貸してやる。》
また聴こえた。
この声の感じ‥‥キタかも。
「くれてやるから、頼む。」
独り言の様に言うと小さなトカゲが、どこからともなく現れた。
「チビっこい!!」
心の声のつもりが、ついつい声に出てしまった。
声のトーンと姿がマッチしてないし………
コイツに任せて、いいんだろうか?
小さなトカゲは、口から火の玉を吐き出し、何度も飛ばす。
それを避ける緑のチビ。
やっぱり当たらないのかと思った時、避けた場所に火球を飛ばし、見事に当てた。
緑のチビは吹き飛んで、煙が上がっている。
やるなぁ。
しかも助かったし。
火トカゲは、攻撃した対象を見ていたけど、相手が動かないのを確認して、僕に向き直った。
《お前‥‥『チビっこい。』って言っただろ?》
やっぱり話していたのは、コイツらしい。
「あぁ‥‥うん。
ゴメン。」
取り敢えず、素直に謝る。
命が助かったんだし、平和主義の僕は、謝る事なんて、へっちゃらです。
《‥‥‥まぁ、いい。
でも、こんな姿なのは、お前の魔力が小さ過ぎるからだ。
文句を言うな。》
チビな火トカゲに説教されてます。