平和が音を立てて崩れ去った日
「ふぁ~‥‥」
窓の外では、体育をしている生徒。
「細胞分裂を繰り返し‥‥」
教室では先生が、黒板に絵を交えながら細胞分裂を熱弁。
眠い目を擦りながら、何とか黒板を写す。
(早く帰りたいなぁ)
――キーンコーン――
――――カーンコーン――
(おっ!やっと終わりかぁ)
途中かなりヤバい時は、あったものの寝落ちしないで1日を過ごした。
今日も目立たず、平和な1日。
何も起こらなくていい。
退屈でいい。
僕には、そんな一日が幸せなんですから。
(帰ったら、何しようかなぁ)
ぼんやりと、そんな事を考えながら自転車を漕ぐ。
まぁ、今日も再放送のアニメ観て、ニュースをチラ観。
そうこうしてる間に、ご飯。
またテレビ。
風呂に入って、寝る。
そんな感じだろう。
いつもと同じ時間に部屋に戻り、テレビを点けた。
あぁ、そうだ。
確か、観ろって言われてたドラマがあったっけ?
明日返さなきゃダメだ。
観て 軽く感想言わなきゃハブにされる。
平和な毎日が、送れなくなっちゃうよ。
借りたDVDを入れてスタート。
チラ観でいいだろ。
そう思って、DVDが流れるTVを そのままに……。
その一方で、PCをいぢる。
ニュースをクリックしながら、目を通す。
片手には、ケータイ。
DVDの持ち主へのメール。
3つの画面を 代わる代わる見ながら、それぞれをチェック。
我ながら器用。
―――パチッ――
‥‥‥
部屋の中で、何かが弾ける様な音がした気がする。
(ドラマかなぁ)
あまり気にしないで、それぞれの作業を続行。
(あっ‥‥ヤバッ!確かCDも入れとかなきゃ返す日、明日だし)
たまたま 好きなアーティストのニュースが目に入り、思い出す。
CDをセットするとデータに変換して、保存する。
―――パチッ――
また、弾ける音。
いや違う。
どちらかと言うと静電気。
何かに触れた時に走る電気に近い音。
(やっぱり部屋の中で?)
音の正体が、全く掴めない。
―――パチッ、パチッパチッ―
音が大きくなる。
(何か‥‥ヤな予感)
ゆっくりと 後ろを振り向くとパチパチと静電気を周りに纏った黒い重そうな扉が、ある筈のない場所に……
そう浮かんでいる。
(うわ~‥‥一番やっちゃいけないパターンだよ)
これから起こるであろう事に 頭を巡らせていると
―――ぎぃぃぃぃ――
金属が軋む様な音と共に観音開きの扉が、 ゆっくりと開く。
扉の向こうは、明らかに僕の部屋ではない。
かと言って向こう側も、はっきり見えない。
(イヤだし‥‥僕は、普通がいいんだ)
物語の主人公ならば、進んで扉に入っていくんだろう。
でも平凡でも平和がいい僕は、拒絶する。
扉から離れる様に後ずさる。
幸い?にも扉は開いたが、何も起こらない。
と油断した時に巨大な腕が扉から飛び出してきた。
「うわぁぁぁ」
転がって、ソレを避けた。
まるでポケットを弄る様に腕は、部屋の中をガサガサと漁っている。
明らかに僕を狙ってる。
(何で僕なんだよ)
宙に浮かんでいる扉の向こうに僕の部屋の扉がある筈……
段々と静電気の量が増えて、周りの景色が見えなくなってきていたから方向感覚まで、おかしくなってきているみたい。
(どうしよ?)
必死に腕に捕まらない様に避けながら考えてたが、それも長く続かなかった。
「あっ‥‥」
大きな手のひらを広げながら、さながら投網の様に僕を捕まえた。
握りつぶされるかと思ったが、案外やんわりと掴んだまま扉へと戻る腕。
(さよなら‥‥僕の平凡な日々)
歪んでいく景色の中で、僕は呟いた。