日常
駐屯地内の寮がぼくの住まいだ。
家族は近くのマンションに住まわせて貰っている。
体のいい人質だった。
家族と接触した人間や、通信機器の類には監視が付き、情報が漏れないようになっている。
昔の日本ではよくあったそうだ。
情報統制による戦意高揚や不安払拭。
用捨人形に関しては秘匿されている。戦争へ実際に参加させられていると知れば、ユーザーは減るだろう。
ぼくだって嫌だ。
共に戦う歩兵が、ゲームのキャラクターではなく画像補正無しではどうなっているのかなんて想像したくもない。
敵の存在を隠し切ることは不可能だったらしく、現在はどのチャンネルでも報道されている。
公営放送では敵の生態を公開し、それらを歩兵や戦車が蹂躙していく映像が流れ続けていた。
壱岐島にまで攻め入られているにも関わらず、ネットや新聞では連戦連勝の話題しか上らない。
検索エンジンで変わり映えのしない情報を見、ぼくはパソコンを閉じた。
住まう寮はぼくと同じ人形乗りだけが住んでいる。
他の自衛官と区別されているのは、室内にゲームセンターに置かれるような巨大な筐体が置かれているからだった。
プレイの集中を妨げないように仕込まれた遮音素材のせいで、一般の部屋より少しばかり内側が狭まってる。
おまけに二段ベッドを取り除いたであろうスペースにはまる筐体とそれを動かす機器のスペースを考えるに、ここでは一人が住むのにも手狭だと思われる。
それにしても筐体が大きい。
コンシューマー型に比べて段違いにさくさく動くのは利点だが、それを補って余りあるほどの圧迫感。
「狭い」
隣人になる女の子(中学生くらいか? 随分と背丈が小さい)は扉を開くなりそう言って、寮長に直談判をしていた。
幹部用の広い個室に入る方法は二つだ。
ゲーム内のポイントを使用するか、任務達成によって尉官になるか。
その話を聞いてからというもの隣人―――プレイヤー名『タナバタ』は昼夜問わずに訓練やミッションを熟していった。
「イクトは拙い」
その言葉通り、彼女はとても優秀な人形乗りであり、ぼくは凡庸な人形乗りだった。