戦闘2
プレイを中断した場合、ミッションを選び直すか、人形が全損しない限りは中断場所からのスタートが可能だ。
起動と同時に右腕に気が遠のくような痛みが走る。
即座にオプション設定画面を開き、BMIの感度を八割から二割に戻す。
突き刺すような痛みは、誰かに握られている程度の感覚へと鈍る。
網膜に映った映像にはさっきまでぼくが操っていた人形があった。
左腕を動かし、抱きすくめられた拘束を解く。
ぼくの人形から小銃を奪い、振り返って滑走路を見た。
そこではタナバタが舞い踊る様に戦闘を続けていた。
敵のしなる枝葉を見切ったように半歩横へ。
銃を撃って前へ出たかと思うと、後ろへ飛びずさる。
背後から音も無く忍び寄る根っこが、タナバタの足を刈り取ろうとした瞬間、跳ね上がって踏み潰す。
佐々原は滑走路という遮蔽物の一切無い開かれた場所で、その動きだけで敵木の攻撃を躱し続けていた。
「タナバタ」
撤退を促すよう言葉を掛けた―――しかし、いつものような即答は無かった。
ほんの少しの間を取って「足止めをする。イクトは自分の人形でプレイし直すか、担いで先に行く」と答を返した。
ぼくが自分の機体を捨てていくことに意を反したいらしい。
佐々原にしては珍しく理に適ってない判断だった。
「戻ってる時間は無いし、担いでいたら速度が落ちて、この騒動に呼応するだろう敵木に囲まれる」
「これは彼女の失敗。イクトが犠牲になることはない」
佐々原の言葉に、設定を戻したはずの右腕が痛む。
「アレクシスだけが悪いってわけじゃないだろ。佐々原」
責めるように言ったつもりは無かった。
けれど、さっきまでの動きが嘘のように固まった彼女の人形は、首を飛ばされ、四肢が分断された。
当然、次の標的はぼくになり、周りに隠れられるような人工物は無く、森の中に逃げるしかない。
多くの敵が潜んでいる森へ。
ぼくは、ぼくと佐々原の人形を捨て置いて、森の中へと駆け出す。
背後から追って来る敵がいる為に、進路を冷静に判断する時間も無い。
擬態していることが分かっていても、そこに突っ込んで行くしかなかった。
視界を遮ろうと、枝葉を蒔き散らす木々を、ぼくは相手にしない。
足を掛けようと、盛り上がる根を、ぼくは脚を高く掲げて圧し潰す。
速度を殺そうと、網目状に伸びたツルを、ぼくは残った左腕で両断した。
避けて。
回って。
飛んで。
跳ねて。
揚陸艇までのたった百メートルが死ぬほど遠い。
上陸後、最初に見つけた敵木が見えた。
既にこちらに気付いている。
大量の海水を吸い上げているのだろう、あらゆる根が海へと伸びて脈を打っていた。
自身の木片を変質させた研磨剤を海水に混ぜる、からころと乾いた音。
木々の表皮がささくれ立つ。
大砲を向けられている気分だ。
ささくれが反り返りきるタイミングを計り、跳び上がって避けるしかない。
そうして膝に力を込めたところで、背後から追いついた敵がその鋭くしなる枝で、人形の脚を両断した。
支える脚を失った人形は、前のめりに倒れていく。
ダイヤモンドすら切断しうる敵の超高圧切断水が、ぼくの操る人形をばらばらに寸断した。
MISSION FAILED。
ミッション失敗と自機の全損、部隊全滅分を更に減算された結果が表示される。
マイナス五〇〇ポイント。
祖父との再会はまだまだ先になりそうだった。