戦闘
「時間がおしい。戻りながら説明します」
根付いた木々は新種の可能性が高い。
間合いも、何に反応するかも分からない。
たった三機では不足の事態に陥った時に対処できないだろう。
まして一機は素人。
全方向に向けての警戒を二機で行わなければならない。
島全体の侵食状況を調べるミッション自体は達成されているとは言えない。
しかし、人形が全損すれば元々持っているポイントを失うことになる。
同ミッションを熟す味方の人形に損害が出てもそれは同じだった。
祖父と会いに行く機会が遠のく。
ここはリスクヘッジを取る。
後退しようとするぼくの人形に、アレクシスはくってかかる。
「ここに来て三十分も経ってないし! あたしはあんたが敵の見分けがつくってことに納得してないんだけど!?」
「海岸近くにいる敵木がありました。あれを揚陸艇に乗り込んでから射撃します。動けばぼくが言ったことが本当ということになります」
「たった一件のケースだけで判断できるか! バカ! 科学者舐めんな!」
そう言ってアレクシスはぼくの人形を押し退けて前へと走り出す。
「ここで立ち止まったってことは、あんたこの先に敵木がいるって判断したんでしょ! だったらこれで確認できるじゃない! そいつら倒してミッション続行よ!」
盛り上がった地面を掛け上がって滑走路へ。
走った振動が地を伝わり、滑走路を根城にする木々が蠢き出す。
それは波に揺らぐ海藻のようにしなやかに枝を弛ませて、突き進むアレクシスの人形へ向かって鞭のようにしならせた。
ぼくは知らない。
こんな攻撃。
ぶつり。
枝を振るわれたアレクシスが乗る人形の右腕が千切れ飛ぶ。次いで、アレクシスの絶叫がスピーカーから流れだした。
「あぁああああぁぁあぁあぁぁあッッッ!? 痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃッッッ!!」
左手で切断された右腕部を押さえる人形。
アレクシスの人形はその場で蹲ってのたうち回った。
人形からのフィードバックが大き過ぎる。
ぼくと佐々原は同時に駆け出す。
「タナバタ」
「了解」
呼ぶだけで意図が伝わった。
ラグは最小限。
佐々原は追撃を掛けようとする敵木の一体に向けて弾幕を浴びせかける。
貫通した弾丸は後ろに生えていたもう一本の敵木をも粉砕した。
アレクシスへと向かっていた敵の枝葉が対象を佐々原へと変える。
その隙にぼくは蹲ったアレクシスの人形を抱えて滑走路の外へと後退した。
「あぁぁぁぁぁっぁあぁあああ! うぅぅぅうぅぅうううう――――ッ!!」
「ゲームを中断しろ!」
「なんでなんでなんでよ!? なんでこんな痛いのぉぉぉぉぉッッ!?」
「いいから! 早くしろ!」
「痛い痛いぅぅぅうううううぅううッ!!」
アレクシスの人形が暴れ出し、ぼくを振り解こうとする。
駄目か。
運営に問い合わせるか。
いや、間に合わない。
それなら。
ぼくは人形を操作し、アレクシスの人形を抱くようにし、両指を絡めて動きを固定する。
そうしてBMIをはぎ取るように外し、ぼくは筐体の外へと飛び出した。