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偵察2

「どれが敵かさっぱりなんだけど」

 背後からがなり立てるアレクシスの声に我に返る。

 呆けてる間に砂浜に到着したらしい。

 木々の隙間からトタンで出来た青いレンタルハウスと、コンクリート製の古びたトイレが見える。

 揚陸艇から、ぼく、佐々原、アレクシスの順で降りた。

 周囲をじっくりと見回して、敵がどこに潜んでいるかを確認する。

 焦れて前に出そうになるアレクシスを制し、自分たちが行くべき方向を指差した。

「左方に生えてるアレらは敵木てっきです。おそらく海水を利用して砲撃してくる流木型。こちらに気付けば攻撃してくるでしょう。右へ。避けて行きます」

 地図を呼び出して確認すると、東側には壱岐空港があり、滑走路がある。

 一般道路と違い、航空機の離着陸を支える強度を持つ特別なアスファルトを使用している。

 アレらが根付くのにも時間が掛かることは、対馬防衛ミッションでの空港で確認済みだった。

「他のと何が違うのよ」

 チャットで感情は伝わらないが、イントネーションで不満を持っているかどうかは分かる―――というか、彼女が満足そうに話しているところをぼくは聞いたことが無かった。

「雰囲気ですかね。何となくです」

「納得するとでも思ってんの?」

「理屈で説明できるなら、タナバタも食堂で話したでしょう」

 さっきから会話に入ってこない佐々原を見やる。

 周囲を警戒し、アレクシスの人形を守るように歩いてはいる。

 翻訳する必要が無くなったからか。チャットにすらコメントを流さない。

 アレクシスと話すのが面倒になっただけかもと、勘ぐってしまう。

 合理優先の理系女子には、感性重視の文系女子と相性は悪かろう。

 それでもきちんとアレクシスを守る様に人形を動かしているところが有難い。

「有難う。タナバタ」

「眼鏡を掛けてくれればいい」

 よほど見たかったらしい。

 まさかここでその話を持ち出してくるとは思わなかった。

 意地を張っていた彼女がようやく見せてくれた譲歩。

 これを逃すことは出来まい。

「このミッションの後でいいか」

 ついでにクエッションマークの絵文字をチャット欄に流す。

 すると佐々原は、デフォルメ化された人形が、ファンシーにサムズアップしているイラストを即座に返してきた。

 彼女がこういうのを好んで送って来る度に違和感が拭えない。

 年相応の女の子としては、なるほどそうなのかもしれないが―――「二人とも止まって下さい」

 コメントを流すと同時に、人形にも左手を握らせ、空に向かって肘を曲げる動作をさせる。

『止まれ』のハンドサイン。

「なによ。どうしたの?」

「引き返します」

「はいはい。前の方に擬態している敵木がいるわけね。次は左? それとも右に行くの?」

「揚陸艇まで戻り、ミッションを終了するという意味です」

 途端、チャット欄には不平不満の嵐。

 その中で佐々原のコメントが一行『了解』と表示されていた。

 ぼくが立ち止まった先の景色が見えたのだろう。

 壱岐空港にある滑走路のところどころに木が生えている。

 見抜くまでも無く、あんな固いアスファルトにここ一年で生える植物は無い。

 こんなことが出来るのは化生だけ。

 ―――いや、アレらにしたってこんなに早く根付いたりは出来ない。

 環境に適応している。

 人が造った英知に。

 あっさりと。

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