偵察
選んだ偵察ミッションは壱岐島全土の侵食状況を調べることだった。
侵食と銘打つのは、アレが植物であり、根付くことからいつの間にそう呼ばれるようになっている。
敵には拠点を作る概念が無い。
アレらは水と太陽さえあれば生きていける。兵站を築く意味が無いのだ。
同様に補給路も必要としない。
アレらはただただ愚直に突き進むばかりである。
根付く土地を目指して。
人の都合などお構いなしに。
ではどうして、自衛隊は壱岐島を取り返さないのか。
陸路がないので大量の人形を動員が出来ないことと、補給が難しく戦線を維持し辛いという二つがあるが、一番の理由は敵がそこに植生を築いているからだった。
通り過ぎた土地に花粉や種を蒔き散らし、筍よろしい旺盛な成長力によって二日もあれば立派な戦力になる。
新芽と呼ばれるソレらは体長が低く、狙いを定め難い。
攻撃手段が突進のみで、人形を傷つけるほどの力は無かった。
しかし、ただの歩兵には脅威だ。
島を奪回し、拠点を保ち続けるのならば、どうしても人間が直接それを運用し、維持しなければならない。
武器・弾薬の管理と整備。
人形への燃料補給や修理。
インフラ整備に事務仕事。
人のように動かせる人形ではあるが、そこまで緻密な作業は不可能だった。
まして目の前に広がる光景を見た後では、人形がどうとか、人がどうとか言う以前に、本当に復旧が出来るかと思わざるを得ない。
「酷いな」
揚陸艇のカメラから網膜に映し出された景色は、鬱蒼と茂る木々ばかりだった。
ジャングルと言い換えてもいい。
壱岐防衛戦の時に、寄生される可能性がある植物は全て焼き払っていたにも関わらず、だ。
島を明け渡す気なんて、無かったろうに。
島を明け渡さざるを得ない、と作戦立案者は戦う前から分かっていたのかもしれない。
本土決戦を少しでも遅らせる為の遅滞作戦。
踏みとどまれない。
だからこそ焼き払った。
しかし、燃え残った植物灰が、土を豊かにし、新たに芽吹く化生に栄養を与えたのだろう。
アスファルトや岩肌まで木や根に覆われている。
結果的にはどちらが良かったのやら。
即戦力である育った木々を残すか。
若い戦力を育てる土壌を残すか。
―――選択肢は多くなかった。