訓練2
現在、ぼくたちはBMIを使用し、模擬線モードにて対戦を行っている。
偵察ミッションの前に、アレクシスの腕前を見てみたいと思ったからだった。
しかし。
アレクシスが操る人形の動きを見てため息が漏れる。
「酷い」
上から糸で釣られている、操り人形のようにぎこちない。
パソコンに詳しくない祖父に、メールを打つやり方を教えた時の感覚が思い起こされる。
もどかしい。
出来る仕様なら操作を奪って操縦したい。
本当に軍関係者であるか、そして、BMIや人形の整備が出来るのかと、どちらも疑いたくなる。
基本動作すら怪しいのは、このゲームをプレイしたことが無いと思わざるを得ない。
タナバタが英語で何事かを話している。
次いで、ぼくは翻訳された文章を見た。
「これは模擬戦。実際に人形は壊れていない」
指摘すべきはそこじゃない。
ぼくは仮想の森林に身を隠したタナバタを探しつつ「偵察ミッション中は決して前に出ないで下さい」とアレクシス向けに通信を送った。
彼女が人形を破壊し、それで手持ちのポイントを全損させたところで、技術者な彼女は危険度の高い手術などを強要されたりしないだろう。
しかし、ぼくらは違う。
貴重なBMI技術士官、それも最大の物資援助国から出向しているお方のご機嫌を損なえば、軍のお偉方に目をつけられる可能性極大。
何せぼくのプレイが気になったと言うだけで、ここに来られる立場なのだ。
彼女が手術を受けろと言った日には、否応なしに受けさせられる羽目になる。
翻訳モードをオフにし、タナバタ向けに通信を送った。
「訪問客は任せた」
少しの間が空き、通信が返って来る。
「擁護者を擁護する」
く、と笑ってしまう。
打てば響くというのは心地がいい。
「ちょっと! 日本語は禁止よ! えっと……これどうやって翻訳すればいいの!?」
日本に来たんだから日本語で話して欲しいと思う。
「オプション設定を変えて下さい」
「表記が全部、日本語で分っかんないわよ! あーもーイライラする!!」
スピーカー越しにボタンをめちゃくちゃに押してる音が聞こえたので、呆れつつも佐々原にアレクシスの面倒を見るようお願いした。
日本語を話せとか、世界で一番使われている言語に不勉強なぼくが言う事でも無かったと反省。
「もうそろそろミッションが始まる時間でしょ!? 早く教えて! 置いて行くなんて許さないからね!」
意気込む彼女に対して、ぼくは聞こえないようにため息を吐く。
今回のミッション参加は当然のごとく見送り、ぼくらは彼女の訓練に数日を費やすこととなった。