アレクシス
もの珍しそうにぐるりと食堂内へ向ける瞳の色は、珍しいことにオレンジだ。
日中に望める太陽のようにきらきらと輝いている。
白だと思われた髪は、噛んで含めば甘そうなモーンアイボリー。
一本一本が上質な糸で編み上げられたように流れた髪が、胸の谷間へと滑って行く。
髪の隙間から覗く耳は隠れるように後ろへ倒れていて可愛らしい。
白磁色の肌は雪のようで、触るときっと冷たいように錯覚しそうだった。
食事の手が止まる。
見入ってしまった。
食堂にいる誰しもが同様に息を呑み、場が静まり帰っていた。
物言わぬ彫像と化したぼくらを、絶景を眺めやるようにして、ゆっくりと動いていた視線が、固まっていたぼくの目と交差した。
咄嗟に目を伏せる。
悪いことをしてたわけじゃないけれど、見つめていたと思われるのは気恥ずかしい。
「あなたが一隻眼のイクト?」
掛けられた声に顔を上げると、先ほどの美女がテーブル越しの正面に立ち、値踏みするようにこちらを見ていた。
掛けられた言葉は英語だった。
リスニングは得意では無かったが、確かめるように相手がゆっくりと言ってくれたので、かろうじて聞き取れた。
イクトはぼくのプレイヤー名だけれど、イッセキガンというのは何だろうか。
少なくとも英語では無さそうだが。
「イッセキガンとは何ですか?」
発音の怪しい文法無視の片言英語で返すと、彼女は隠れていた耳に髪を掛けて手を添える。
「なんて言ったの?」
「イッセキガンとは何ですか? と聞きました」
「は?」
どうにもぼくの発音が拙いらしい。
英語の教師にもよく言われたが、巻き舌になるのを恥ずかしがるな、それが英語を取得する第一歩だと。
うん。
無理。
「イッセキガンって何ですか?」
拙いぼくの発音にうんざりしたのか、美女は外人特有の大げさに肩を竦めるアクションを取り「誰か翻訳してくれない?」と周りに向かって叫んだ。
誰も彼もが目を逸らす中で、佐々原だけがこちらを見ていた。