慟哭
スマホから着信音。
緊急ミッションの通知だった。
気軽にゲームをしていた頃が懐かしい。
自室に設けられた筐体に入り、寝違えそうに重いBMIを被って、ゲームをスタートさせる。
網膜に映し出された景色はどこかの海岸だった。遠くに浮かぶ島が見える。
ぼくよりも先に起動していた用捨人形や自律走砲台が岸に向けて配されている。
水際作戦をするつもりだろう。
ミッション内容や、地形図を網膜の左下に映す。
違う。
人形や砲台は縦深防御に適した配置となっている。
鶴翼陣形のように敵の侵攻に対してV字形にはなっているものの、その交点に配されている部隊が見当たらない。
人形も砲台も配置されていない大きな穴になっていた。
視線をマップから景色に戻し、マップ上の穴になっていた場所へ人形を向き直す。
春になれば美しい花を咲かせるだろう桜の木々がところどころにあり、その先には――。
ぴたり、と音を立てて思考が停止する。
目まぐるしく考えが巡って脳の処理が追いついてこない。
「配置に戻れ!」
「ポイント狙いに行くんですね。分かります」
「機体ポシャって大幅損になるっしょ」
通信からの声で、自分が走り出していることに気付く。
BMIが意思の通りに人形を突き動かす。
足を刈り取ろうとする僚機を跳び上がって避け。
立ち塞がった隊長機が伸ばす手を掻い潜り前へ。
波打つように緩やかに曲がる海岸沿いの道。
弧の両端を結ぶ弦のように真っ直ぐ、道と道の先端を放たれた矢のように飛ぶ。
マリンパーク多古鼻の青い看板を踏み潰し。
県道と交差する『チェリーロード』と書かれた道路標識の矢印とは逆に走る。
走って走って走り続けて辿り着いた場所は青く透き通った波打つ野波海水浴場。
赤い石州瓦の家々が立ち並ぶ隘路で、警官に誘導されて行く住民たち。
その中には祖父の姿もあった。