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Sextant  作者: はわら
餓狼跋扈
6/6

逃走3

街道は避けていくべきだった。何が通るかわからない。当たり前だ。

旅の服装でもない見るからに怪しい人間が歩いていたら、誰もが疑いの目でみるだろう。




からからと後ろからくる馬車の音に何の警戒もなく振り向いてしまった。

「おや、どうしたのですかな、そのような格好で?盗賊から逃げてきたのですかな?」



頭をすっぽりと隠せる帽子をかぶり、ゆったりとした高そうな服を着た人間が話しかけてきた。

左右には馬に乗った護衛らしき男が二人。



「あ、は、い。はい。逃げてまいりました。困っています」


ようやくそれだけを口にした。

勘違いしている、かもしれない。このままどこかの商人の娘と偽って助けてもらおう。



「そうでしたか。いや、ちょうどよかった、一匹病気で死んでしまってねぇ、どこかで補充しようと思っていたんですよ」


その言葉を聞いて俺は走った。森に、森に逃げ込めば!

しかし、その希望はあっさりと打ち砕かれた。


護衛の一人が槍の腹で俺の背中を打ち付けた。呼吸が一瞬できなくなり、そのままぶっ倒れた。

そして両手を縛られ檻のなかに押し込まれた。



「いやぁ実についていた。死にそうな奴隷が死んで、代わりに生きのいい奴隷が手に入ったんだから」


つくづく自分の不幸を呪いたい。ふと笑いそうになった。

檻の中を見渡すと、4人の同じ境遇の奴隷が皆一様にうつむいていた。



みんな美人の若い女だった。10代から20代、一人ごほごほとせき込んでいる。病気だろうか。

またここで俺は奴隷になるのか?いやだ。絶対に嫌だ。

幸い両手は空いている。護衛は四人しかいない。前に二人、後ろに二人。

こいつらの目をごまかして逃げる。逃げてやる。


「脱走しよう」


ぼそっと護衛に聞こえない程度に声をかけた。

四人の顔が上がる。



冷静に状況を考える。


商人が荷物の入った馬車に乗って前方にいる。その両隣に護衛が二人。

そして俺が乗っている奴隷の檻馬車が後方にいる。その両隣に護衛が二人。


檻の入り口はごほごほ言っている病気の少女のところにあった。右後方だ。


あとどれぐらいで商人の拠点につくのかわからない。その間が勝負だ。



「ここはどこかわかるか?」


全員首を振る。しかし、病気の少女がぼそりと言った。


「ガリアから南東の方に進んだと思う。たぶんエスタ地方の都市国家に向かってる」


ごほごほ。


「大丈夫か?」

介抱するふりをしてこっそり扉の近くへと座った。

「あとどれくらいで着くと思う?」



少女は考えて言った。

「聞いた話だと、ガリアの最南端の村から一番近いエスタ地方の村までは馬車で2週間、もう11日も乗っている。あと三日ほど」


また、ごほっと。


「護衛は何人だ?」


外に出ているので4人、荷馬車の方にもいるかもしれない。確認しておかないと。


「六人、夜の見張り要員が二人荷馬車の中に」


逃げるのは夜だ。



日暮れが差し掛かった頃、奴隷商人達は野営の準備をした。

干し肉をと固そうなパンを食べている。


人数分の固そうなパンが投げ込まれた。


「私はいい。どうせ死ぬから」


そう言って病気の子はみんなにパンを分けた。かなり悪いんだろうか。

「食っとけよ。死ぬ時まで腹減らしとくのかよ」


俺のパンを半分にして渡した。しかし、ふ、と笑って少女はそれを押しやった。



護衛の四人と商人が荷馬車に入って寝静まったころ、遠くで狼の遠吠えがした。


「うへえ、まじかよこの辺、狼の縄張りか?大丈夫かね」


「へ、あいつら賢いからさすがに馬車は襲わないさ。びびってんのか?」


「んなぁこたねぇよ。心配なだけさ」


「狼といえば知ってるか?これから向かうエスタ地方には狼が神様って言い伝えがあるんだとよ」


「知ってるぜ、だから家畜が襲われてもむやみやたらに殺したりはしないんだってな馬鹿な奴らだぜ」


ばちばちとたき火が鳴る。護衛の男たちは狼の話をしていた。エスタ地方の下級貴族には狼を手名付けている娘がいるんだと話なども聞こえてきた。

俺は檻の様子を見ていた。木でできた檻だったが、頑丈に作られている。三日で破壊は難しいか。手のロープが緩めば少しはいじれるかもしれない。


檻の柵を利用して縄を切ることにした。上下にこすれば摩擦で切れるだろう。



昼間は護衛がいるから目立つが、夜は二人しかいない。いまのうちだ。


休み休み少しづつ縄を切る。


「本当に逃げ切れると思う?」


ふと少女が聞いてきた。病気の子とは別の女の子だ。たき火から遠いため暗くて表情は見えない。

「わからない」


そう答えた。あからさまにがっかりされた。逃げた先に当てがあるとか思ったんだろうか。


「全員がバラバラに逃げれば、一人が逃げる確率があがる」


そう答えたきりだまった。病気の子はかすかに笑ったようだった。


おおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。



突然狼の声がこだました。かなり近い。

護衛の二人は武器を構えた。


「おい、さすがに近くないか?」


「だ、大丈夫だ。だが、旦那は起こしておこう」



護衛と商人の全員が起きた。

全員が緊張の夜となった。

しかし、、無事何事もなく夜は明けた。



明らかに疲労の色が顔に出ている護衛たちはそれでも朝になると進んだ。

狼を警戒しているのか速度は早めになっていた。


縄はほとんど切れかかっていたので、中断して様子を見ていた。

今晩のために眠ることにした。病気の子は相変わらずごほごほしている。


昼に護衛が二人交代して荷馬車の中に入った。

まだ追われているんだろうか。


ふとあの森であった白い狼を思い出した。

助けてくれないかなと思った。まぁ無理だろうな。



ひとまずここまで。


結構ガッツリ変更すると思います。よろしくお願いします。


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