群狼、獲物を狙う
ここではない時代
いつかの場所
群雄割拠する大陸で生を受けた元日本人の久高録治は、奴隷だった。
虐待され、犯され、殺されそうになる彼を拾ったのは下位貴族の娘だった。
「さて、お前の死に、1コニーの価値があるか」
気まぐれで飼われただけだったが、彼は貴族の娘に、命をかけることを誓った。
六分儀が指し示す、大地立つ場所は戦乱の世界。
戦いと血煙の星。
これは奴隷の身から王冠を頂いた男の物語。
これは奴隷王のサーガ。
第ゼロ話
船乗りが言うことには、天は六つあるという。
頂点、四方に輝く星々と、下方海面に映る星々と。
その星々をつなぎ、星座と呼び、神話を語る。
空を見上げながら人はさまざまな星を太古の昔から見てきたことだろう。
うっそうと茂る樹海の隙間から月明りは落ちてくる。
闇夜というにはまだ遠い。
空を見上げる。
「聞け」
ざ、と周囲の獣じみた者達が身体を正す。
「敵はまだ気づいてない。しかしまぁ結構な大群で2万超え、味方は少数300の、つまり。いつも通りだ」
なんら変わらない血みどろの戦いがこれからまっている。
隣にいた誰かが言った。
「いつもどおり、壊して潰して掃いましょうか」
そのとおり。
「いくぜ」
一群は静かに行進した。
皆、餓えてぎらついた群狼のように静かに森を下る。
鎧をつける者は無く、衣擦れが虫の羽音のようだ。
特に名づけることもせず、ひたすら進撃するためだけに集めた。ただひたすら暴れるために集まった。ただただひたすらに撃滅し、蹂躙し、破壊しつくすために集まった。この灰のような大地を王侯貴族や腐った支配者の血で染めつくすために集まった。
500人近くいたが、あんがい生き残っていた。絶望にはまだ早いだろう。
死に急ぐ勇者どもが多いから、こうなるには時間がかからなかった。
戦闘狂どもが行く。汗と、血と、腐臭を漂わせて。
敵は丁度北極星の真下にいる。
ただ真っすぐ前へ進む。
前へ
前へ
ただ前へ