襲撃
覆面パトカーで現場に移動中。車内では8トラックのステレオから Beatles の“HelloGoodbye”が流れてる。
左耳を塞ぎながら迷惑そうな顔で運転するユオ。
助手席でタバコを吸いながら熱唱するボッサン。
「You say yes,I say no~♪」
「ボッサン、声デカいよ~、まったく!あっそうだ。今度カラオケ行こうよ。ホヘト先輩誘って」
「ホヘト?あいつ酒飲むと寝ちまうからな。それに今潜入捜査で香港行ってるし。
なんでも有名なバンドに紛れ込んでるとか。あ~っと。そこのコンビニでアイスコーヒー買って来てくれ。
甘いもん飲まないと、灰色の脳細胞が働かねーんだよ」
ついでに紹介しておこう。
ホヘトこと、北川健司。警視庁から赴任して来たイケメン刑事。趣味?でバンドを組んでいる。
「ハイハイわかりやした」
車を停めてタラタラとコンビニに向かうユオ。
鼻歌を歌いながらルームミラーをチラッとみるボッサン。
しばらくしてユオが帰って来て、覆面パトカーは再び走り出す。
「しかし、この覆面パトカー古すぎない?もっと新しいのに変えてもらおうよ」
ちなみにこの覆面パトカーとして使っているセドリック。昭和45年式の骨董品である。
缶コーヒーを開けてゴクゴク飲むボッサン。
「バーカ、これがいいんだよ。このセドリック、外見は古いけど、エンジンはL28(エルニッパチ)のフルチューン積んでるんだぜ。
マフラーはノーマルだけどさ。それにこのベンチシート、広くていいだろ?」
缶コーヒーを飲み干してタバコに火を着けるボッサン。
「ん?エロいパッチのフルチン?」
ユオはマジ顔でボッサンに聞いた。
「エルニッパチのフルチューン!どんな耳してんだよ」
車には滅法弱いユオであった。
「そこの道、右に曲がれ」
「え?現場はまっすぐでしょ?」
「いいから曲がれ」
ボッサンの言うとおりにユオは右折して、閑静な住宅街に入って行く。
「ユオ、気付いてるか」
「ん~?なにが?」
「後ろのベンツ、署を出てからずっとつけて来てる」
ボッサンは助手席用のルームミラーを見ながら言った。
「え~知らなかった。なんで?」
「おれらに用事があるんだろうよ。そこで車停めろ。やり過ごすぞ」
ユオは覆面パトカーを左に寄せて、ハザードを出して車を止める。
その横を真っ黒のベンツがゆっくりと通り抜ける。窓はフルスモークで中が見えない。
「行っちゃったよ。気のせいなんじゃない?」
ベンツは少し先で止まった。
両側のドアが開いて、男が2人降りて来た。
顔にはホッケーマスク。
手にはアサルトライフルを持って‥!
「おいでなすった!」
ボッサンはタバコを灰皿でもみ消した。