平凡な放課後
魔族襲撃事件後たった数時間、ではなく数十分後の現在こと放課後。
俺は一人で街中へと買い出しに来ていた。訳あって一人暮らしをしているのだが、消耗品や食糧をまとめて買うようなことはせず、その都度毎に必要な物だけを買うようにしている。
面倒くさいと思う奴もいれば非効率的だと思う奴もいるだろう。
だが、そんな意見は知ったことではない。何故なら、俺がそうしたいからだ。他者の意見が正しいとしても、これについては譲る気は全くない。
俺個人のささやかな楽しみでもある。
「さて、今日の晩飯は何を作るかな。」
商店街を歩きながら献立を考える。そうしていると、ちょっとした大きさの書店の前にさしかかる。
「新しいレシピでも仕入れてみようかな。」
現在でもそこそこのものは作れるが、やはりプロの料理人には及ばない。でも美味しいものは作ってみたい。
自炊生活をしているからこそ、作るものには自分なりで出来る限り美味いものにしてみたい。
「うむむむむ…………、どーすっかな………」
現在の状況、新たに料理本を購入してレシピの幅を広げるか否か。個人的には買いたいが、本を買うとお小遣いがなくなって、しばらくは節約生活を強いることになる。
「……決めた!しばらくは節約生活に突入だ!」
幸い、偶々だが家には食材のストックがあったはずだ。最悪でも一食抜いても死ぬ訳じゃない。これも修行の一つとして考えればいいだけだ。
そうと決めたら書店の中の目当ての場所へ直行した。
購入直前に軽く立ち読みしてみたが図解説明や細かいアドバイスがあるため、お値段の割りには得な買い物となった。
「さてと、あとは足りない食材を買いに行くとしますかね。」
手に入れたレシピを試す為には家にあるストックだけでは足りないので、当初の予定通り食材の買い出しに戻る。
「あれ?宇野原?何でここにいるの?」
後ろから声をかけられた。振り向いてみればそこにはクラスメートが同じ学生服のままで買い物籠をさげていた。彼女はミリエリス=アーカス。淡い緑色のショートヘアー、ぱっちりとした目から予想を裏切らない活発な性格をした娘だ。クラスでもそれなりに人気があるのを誰かから聞いたことがある。
「何でって、食材の買い出し。そっちは?」
「こっちも同じだよ。家に着いた直後に母さんから行ってこい、ってさ。」
なるほど。
「大変だな。」
「まぁ、これくらいは大したことじゃないよ。あたしがご飯を作るわけじゃないから。」
確かに買い出しだけなら大したことでもないな。
「しっかし、あんたが食材の買い出しをしているなんてね~。」
「意外か?」
「うん!クラスでは何もしてないし、想像したこともないよ。」
クラスでは俺の周囲には人が集まらない。わざとそうしているからだ。
「まぁ、家の事は外には出さないようにしているから知らないのも当然だよな。」
「何でそんなことしてんの?」
「やっぱり、聞かれるよなー。」
普通の学生のくらしとは全く違う生活だということは知っていた。周囲の人達には気付かれないように意識していた。
「ん~~~~~~、あんまり答えたくないんだ。これについては訳ありでな……。」
「ふ~~~ん、そっかぁ………。まぁ、他人様の家には他人様の家の事情があるっていうし、あんまり聞き過ぎるのも良くないよね。」
あっさりとひいてくれるミリエリス。このサッパリとしたところが人気の一つだろう。
「……っと、急いで買って来いって言われてるんだった。あんまり話してると母さんに怒られちゃうから、これくらいで。じゃ、またね。」
「ああ、またな。」
そんな時間のかかる会話じゃなかったんだけど、母親から急げと言われてるなら仕方ない。
その後は何事もなく、クラスメート達と出くわすこともなく、実に平和な時間を過ごすことかができた。
新しく増えたレシピを早速試してみたが、結果は上々。味付けの方法も増えたし、美味いものが食えたし、いうことなし。
こういうことが続けばいいなぁ…と、思いつつ今日という日を終えるのだった。