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龍闘神戦記  作者: 無電冥路
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日常風景の中の影〈後編〉

 生徒達は無事だった。

 でも私の力じゃ無い。私は敵の攻撃で動けなくなってしまっていた。

 一体、誰の仕業なんだろう?

「ゴオォォァァァァァァ!!!」

 魔巨人エビルゴーレムの咆哮で自分の状況はまだ何も変わって無いことを思い出す。

 何を考えたか思ったのかは判らないが、魔巨人はこちらへと向き直り、腕を振り上げた。

 なんとか立ち上がる事はできても、まだ跳ぶのはおろか、走る事もできない。完全にお手上げだ。

「……ここまで、…なのかな……」

 あの腕が振り下ろされたら、きっと私は助からない。例えシールドで防げたとしても、あの質量と力ではつぶされてお終いだろう。

「………死にたく、ないなぁ……」

 頭の中でいろんなことを思い出してしまい、ポツリと呟いてしまう。

「ゴオォォォォォォォォォォォ!!!」

 再びの咆哮と共に魔巨人は腕を振り下ろしてきた。

 直後に訪れる衝撃に対して思わず眼を閉じ、身体を強張らせてしまう。

 ……………。

 アレ?

 ちっとも痛くない。それどころか、衝撃もない。一体、どういうこと?

 恐る恐る目を開ける。


 そこには、白が立っていた。


 全身が、一部が鎧のような白い鱗で被われた成人よりも一回り大きな肉体。その背には同じく白い龍のような翼。髪も白いため背後であるこちらからは白一色である。

 白いそれは、片腕を前にかざしている。

「ゴオォォォォァァァァァァァ!!!」

 魔巨人が咆哮と共にその腕を何度も叩き付けるように振り回すが、その全てが見えない壁に阻まれ直撃しない。

「……………………」

 そんな光景を前にしても、それは全く声を出さない。

「まさか、白鱗怪人ホワイトスケイル?!」

 ここ最近、街中で侵入してきたモンスター等との戦闘中に突如現れてはあっと言う間に戦闘を終わらせて、気がつけば立ち去っているという全身が白い鱗に被われている謎の存在。

 ただし、それがこちらにとってありがたい事ばかりではない。

 例えばターゲットとして追っていたモンスターを逃がしたり、依頼された任務の邪魔をする事もあるので、正義の味方というのには抵抗がある。

 その実力については全くの未知数。ある程度以上の戦闘能力を有しているのは判っているのだけど、詳しい事は何も判明していない。

「…………………」

 しばらくすると白鱗怪人はかざしていた方とは反対の腕を地面と水平に薙いだ。

 魔巨人の手前あたりで四本の爪が一気に伸びて対象を切り裂いた。

 更に爪はそのままにその腕を今度は上から振り下ろした。

 たったの二撃の攻撃で魔巨人は戦闘不能へと追いやられていた。

 これで終わったと思ったら、魔巨人の眼球がギョロリと動き、逃走を始めた。

 まだ動けたのか、と思ってしまい咄嗟の行動が遅れてしまった。

 しかし、それは杞憂に終わった。

 白鱗怪人は既に動き出していて、逃げる眼球に伸びた爪を突き刺した。

「※#★◇●☆&☆※ーー!?!!?!」

 耳障りな断末魔の悲鳴は徐々に薄れていき、それと同じようにその姿は塵となって風に溶けるように消えていった。

 強い。桁違いに強すぎる。

 こちらの攻撃では大したダメージをあたえる事も出来なかったあの魔巨人を二回の攻撃で倒し、更にはその核となっていた魔族にまで止めを刺した。

 こちらとしては助かった筈なのだが、あまりにも衝撃的過ぎてただ呆然とするしかなかった。

 少しすると白鱗怪人はこちらへと向き直る。

 今知ったけど、正面から見ると本当に鎧みたいな形状をしてるんだ。

 でも、顔は判らない。髪で鼻下より上が隠されているからだ。口元だけで誰だか判別するなんて私には出来ない。

 本当に誰なんだろう?

「…………………………」

 全く喋らないから、声で判別するのは無理だよね。

 不意に白鱗怪人はまたこちらに背を向ける。

 それと同時くらいに分割された魔巨人だったものが浮かび上がり、少しの間ゆっくりと宙を漂う。

 その動きを止めると、狙いを定めたようにこちらに突進してくる。

 白鱗怪人はいつの間にか両手の甲の鱗を短刀のように変形させ、突っ込んできた塊を次々に斬り裂き消滅させていく。

 両腕を振るっているのは分かる。でも太刀筋は全然見えないし、ちっとも判らない。

 それだけでも実力の違いを認識させられる。

 そんなことを考えている間に敵対していたものがすべて消滅していた。

 改めて思う。

 強すぎるって。

 そう考えていると、白鱗怪人は周囲を確認する仕草を見せると、少し屈むと思い切り跳び上がった。

 直後、ポオオン、と何か柔らかなものが弾けるような音と共に激しい閃光が降り注ぐ。

「…っ?!」

 漸く周囲の風景が見えるようになった時、いつもの見慣れた光景だけがあった。ただ一つ、白鱗怪人が跳び上がる際に踏み込んだ跡だけが現実だったことを認識させていた。


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