プロローグ
初投稿楽しんでくれれば幸いです。
プロローグ
俺達が出会ったのは中学生から高校生へと変わろうかという春休みでそれはそれは急な話だった。
それまでの俺はというと今年に入ってから一人暮らしを強いられていた。親父の転勤先が海外だと聞いて真っ先に一人暮らしを希望した。家事はそこそこできたし、頭もいいほうだったので、というより両親がのんびりしていて大らかなのが一番の原因だろうがあっさり了承を得た。
そんなわけで始まった同じ家に居ながら未開の地降り立ったようにおっかなびっくりな一人暮らしは友人の力もあってまあなんとか、本当になんとかなっていた。
考えてみれば中学生で一人暮らしはかなり理想形、思春期で親の干渉が欝陶しくなってきていた俺にはかなり好都合な話だった。『慣れれば楽だろう』みたいなことを考えていた。
しかし神は俺に慣れるまでの期間を与える気はなかったようでようやく一息つけるかと思っていた春休みに俺の一人暮らしは氷山にぶち当たった船のようにあっさり崩れ去った。
ぽかぽかとした陽気に春の訪れを感じながらだらだら惰眠を貪っているとインターホンが鳴った。眠い。
というわけでそのまま寝ているとさらにもう一度鳴った。うるさいなあ、まったくもって。
とはいえいつまでも待たせるのは失礼なので重い腰を、いや鉛のような全身に鞭打って立ち上がり扉を開ける。ちなみにその間にもう一回インターホンは鳴っていた。
宅急便にしては粘りすぎ、友人にしては急すぎるような気がする。俺は来客が誰か全く見当が付かなかった。まあ当然さ、事実扉を開けた先に立っていたのは記憶に無い少女だったからな。
うつむき気味だったその少女はゆっくりと顔を上げ、俺と目が合うとビクッとしてまたうつむいてしまった。
「あの〜、どちらさん?」
当然の疑問をぶつけてみる。
少女はちょっと戸惑ったような素振りを見せ、少し考え込んだあと何かを決心したように拳を握り締め顔を上げて言葉を紡いだ。
「あの、中里光輝さんですよね?」
「そうだけど。」
君は?、と聞くより早く
「私は相川小春です。あの、わ、私を。」
言いかけて沈黙。頬を赤らめながらもう一度先程より強くギュッと拳を握り締めてとんでもない事を言いだした。
「私をここに置いて下さい!お願いします!」
「はっ?」
耳には聞こえてはいたが 頭に入ってこない。普通そうだろ?見知らぬ少女がいきなりこんなこと言ってきたらだれだって混乱するだろ?
「とりあえず上がる?」
少女は真っ赤になりながらこくりと小さく頷いた。
お茶を入れてひとまず落ち着く。
「ええっと、相川だっけ?どうしたの急に?まず俺は君に会ったことないよね?」
「はい。でも父から話はたまに聞いてましたよ。」
父?相川か、そんな名字の人は…いたなあ。確か親父の研究を手伝っていた人だった。親父は遺伝学の権威らしい。詳しいことは難しすぎてよく分からないが。確か親父の助手の人の名字が相川だった気がする。で
「親父の知り合いの相川さんだよね?で何でうちに来たの?」
相川小春は不思議そうな顔して
「もしかして何も聞いてません?」
「何が?」
「私がここに住まわせてもらいたいってことです。本当に光治さんに何も聞いてない、みたいですね。」
初耳だ。ちなみに光治さんはうちの親父だ。じゃあ光治さんに聞いてみますか。
「ごめんちょっと待ってて。」
一言断って電話を掛ける、もちろん研究所に。国際電話とか気にしている場合ではない。トゥルル、ガチャ
「もしもし父さん?」あせっているのが自分でも分かる。
「なんだ光輝か、どうした?」
「相川さんの娘さんが来てるんだけど。」
親父は何やらがさがさ音を立て、
「ああっ、もうそんな時間か。悪い悪い。」そのあと話を聞いてみると、四月から相川さんも研究に協力するために海外に行かなければならなくなった。そしてこの相川小春も俺と同じく一人暮らしを希望した。しかし普通の親なら反対するだろう、ましてや年頃の女の子だし。しかし彼女の意志は意外に強く一進一退の攻防があったらしい。この辺は少なからず誇張しているように思われるが。そこで親父が俺と一緒に暮らすことを提案した、ということらしい。
俺はたまに研究所に遊びに行っていて、相川さんとも話したことがある。そこで俺は意外にも好印象だったらしく相川さんも了承したそうだ。
本来ならなぜ張本人に何も知らせないのか問いただすところだが、今日は待ち人がいるからまたの機会にしておいてやろう。
「それじゃ、小春ちゃんをよろしくな。」
無責任すぎる親父の一言にさらなる憤りを感じつつ電話を切った。大まかな話は分かった、しかし実は俺は一番重要な部分は聞いていなかった。
「どうでした?」
すっかり冷めてしまったお茶をすすり、
「ああ、大体分かった。俺は別に構わない。けどな。」
行きたくない気持ちはわかる、俺もそうだったからな。しかしだからといって見知らぬ男と一緒に暮らすほどなのか。無理をしていないか。そこだけが気掛かりだった。
「本当に俺と暮らしていいのか?」
相川小春はやんわり笑うってこういった。
「私も考えたんです。もし会ってみて恐そうなら海外に行くのも仕方ないって思ってました。でも今私を気遣ってくれてますよね?そんなにやさしい人なら大丈夫だと思います。たぶん。」
この瞬間俺達はあって数十分でいきなり同居人となった。
全くどういうわけか俺の周りにはまともな人間がいないらしい。重要なことを何も知らせない親父、数回会っただけの人間と娘の同居を認める相川さん、それを受け入れる相川小春。まあそんなことがあっても動じない俺も普通ではないかもしれないが。
地味に続けて行きます。