花一匁 21
私の座るベンチから、ほんの一メートル先の砂地。
さっきまで和音ちゃんがいたはずの場所に――別の女の子が立っていた。
黒いコート。見覚えのあるコートだった。裾から覗くスカートは緑のチェック柄で、同じ学校の子だと一目で分かる。私は緊張で荒ぶる息を必死になって整えながら、その子の顔を凝視した。
――凄い、美人だったのだ。
白皙の美貌。そんな形容がこれほど似合う子がいるなんて。
切れ長の目に、その目を縁取る長い睫毛。薄らと赤い唇は同じ中学生とは思えないほど色っぽい。それに立ち姿までもが完璧で、鴉の濡羽色の髪は背中から綺麗に流れて腰まですとんと落ちている。夜風に靡く髪の筋が、光を受けてきらきらした。女の子は月光のスポットライトを女優のように浴びながら、片手で髪を掻き揚げて、不敵な笑みで私を見た。
その姿は、死神のようだった。青色の光に照らされた、白い頬の影が黒い。今にも懐から鎌を取り出して私の魂を刈り取っていきそうな、そんな普通の人とは違う黒さをこの女の子は纏っている。私は白いあの子を思い出そうとしたけれど、もうさっき思い出せたあの子の事を、今は全然思い出せない。忘れたという実感だけが、私の心を寂しくした。そんな喪失に今更気づいて、私は少しぼんやりした。
すると女の子が「ちょっとあんた、私の話聞いてるの?」と声を尖らせたので私は慌ててしまった。
いけない。この子が私に何の用があるのかは知らないけれど、とにかく泣くのは後回しだ。私は指で涙を拭って顔を上げた。
そして、やっぱり困ってしまい――当たり障りのない言葉で、この場を切り抜けようとした。
「えっと、どうしたの?」
そう言って、小首を傾げて微笑んで見せる。
適当な相槌。前後の会話をちゃんと聞いていなくても大丈夫。これで相手は都合のいい解釈をしてくれる。亜美ちゃん達と話す時にも、よく使うやり方だ。
これで何とかなる。私は安心して、女の子の反応を待った。
でも、その考えは甘かった。
私の安堵は女の子の次の言葉で、一瞬で吹き飛ばされてしまったのだ。
「はあ?」
乾いた声で、たったの一言。
でもその声には侮蔑と嫌悪が混じっていて、私はとてもびっくりした。
女の子の顔が、鬼の形相に化けていたのだ。
まるで般若の面のような顔。豹変に驚いた私の元へ、女の子がつかつか歩いてくる。かつん、とローファーの踵が砂とタイルを冷たく蹴った。月光が遮られ、私の全身に黒い影が被さる。ああ、死神の影に呑まれてしまった。茫然とする私を黒い女の子が見下ろして、厳しい声で言い放った。
「あんた、私に『だあれ』って言った?」
「え」
「どういうつもりなのよ! ふざけてんじゃないわよ!」
罵声が、辺りに響き渡った。
鼓膜を突き破るような大声だった。
あんぐりと口を開ける私に、女の子は「あんた何なのっ?」とまた怒鳴った。私はきゃあと悲鳴を上げた。やだ、怖い。声が大きい。私が戸惑っていると女の子は美しい両目を一層凶暴に吊り上げて、ヒステリックな声で喚き始めた。
「何が『どうしたの?』よ! 適当なこと言って誤魔化せると思ったら大間違いよ! あんたさっき言ったわよね、聞き間違いかしらって思ったけど今の聞いて分かったわ! 違うわね? 嘘ついたわね? あんたやっぱり、さっき私に『だあれ?』って言ったのねっ?」
「え、と」
私は反射で、言い訳しようとした。でも女の子の主張は正しい。私は確かに『だあれ』と言った。そしてその事実を責められて初めて、私は女の子が怒る理由に気づき、あっと思わず叫んだ。
さあっと、顔から血が下がっていく。まさか。どうして。悪あがきのようにそう思った。でも逃げられない。私は認めるべきだった。
どうしよう。動揺した。こんな事は初めてだった。
いい加減な相槌。体裁を取り繕う曖昧な態度。
そんな、私のやり方では――――黒いこの子は、騙せない。
「私はあんたの事を覚えてるのよ、風見美也子! 小学五年で一緒だった子でしょ! あんたと私はあの狭い教室で、半年くらい一緒に過ごした間柄なのよっ? 気に入らないわ、こっちは覚えてるのにそっちは忘れてるなんて気に入らないわ! ねえミヤちゃん? それともみいちゃん? 悪い冗談だって謝るなら今のうちよ? いい? 私はね、ブラックジョークを聞くのは好きだけどね、私に絡んだブラックジョークを聞くのはねっ、死ぬほど大っ嫌いなのよ!」
私は凄絶な罵声を浴びながら、その内容にぽかんとした。
……小学五年?
クラスが、一緒?
「ほら、さっさと言い訳しなさいよ。今の馬鹿丸出しの発言は私のつまらない冗談でしたって頭下げて詫びなさいよ? ほら、ほら、ほら!」
「あの」
私は何とか、彼女の言葉を遮る。
そして、上目使いでこう訊いた。
「私って、あなたと小学五年で同じクラスだったの?」
女の子が、黙った。
その反応に、私はかなりほっとした。この女の子はとても綺麗な子だけれど、うるさ過ぎるし喋らせてもらえないから嫌だった。これでやっと、私の話を聞いてもらえる。私は彼女の気が変わらないうちにと安堵しつつも早口で、弁解をつらつら述べ始めた。
「あの、ごめんね? いい加減なこと言っちゃって。私ってすごく忘れっぽくって。あなたって私と同じクラスじゃないでしょう? だからすぐに分からなかったの。えっと、ごめんね?」
私は手を合わせて、申し訳なさそうな顔で微笑む。
嘘がバレたなら仕方ない。いっそ素直に謝った方が、波風を立てずに済むはずだ。これでもう大丈夫。今度こそ丸く収まると信じていた。
でも、やっぱりこの考えも甘かった。
黒い女の子は、私を見逃してはくれなかった。
「はあ?」
またしても尖がった声が、夜の静寂を突き刺した。
「あんたそれ、本気で言ってるの?」
「えと、本気だよ? ごめんね? 私、本当に忘れっぽくて。許して?」
「……。私、少し前にこっちの学校に転校してきたのよ? 貴女、私の事を友達同士で話題にしてたでしょう。綺麗って言ってたらしいわね。嬉しかったわよ? それなりに。……その私を忘れたっていうのは、どういう冗談なのかしら?」
「……あっ」
私は、ぱっと顔を綻ばせた。
やっと思い出せたからだ。今の言葉でようやく。
私と彼女の関係を。ほとんど他人のような関係を。
これで適当な誤魔化しや演技は要らなくなった。私は本当に忘れっぽい馬鹿だと思う。私は照れ笑いを浮かべながら、湧きあがった憧憬と共に、その子の名前を呼び掛けた。
「転校生の、呉野さん!」
呉野氷花ちゃん。
十二月に転校してきた、季節外れの転校生。
ともかく、失礼な態度を取ってしまった。ちゃんと謝っておかなくちゃ。
私は、女の子――呉野さんへ、友好的に笑いかけた。
「呉野さん、ごめんね。思い出した。そうだよね、ごめん。どうかしてた。すっごく綺麗な子だよねって皆で話してたのに、私ってば、ぼーっとしてたんだと思う。えへへ」
「えへへ、じゃないわよ!」
呉野さんが、怒鳴り声を張り上げた。
かつん、とローファーの踵が乱暴に打ち鳴らされる。地団太を踏まれたのだ。私は驚き、馬鹿のように呆けてしまった。
「あんた何なのっ? おかしいわよ! 私は確かに転校生よ? 呉野氷花で合ってるわよ? でもね、私は転校生である以前に、あんたの小五のクラスメイトなのよっ?」
「……そうなの?」
「信じられないわ! 貴女って馬鹿なの!?」
「うん、あんまり成績良くなくって。えへへ」
私はふにゃふにゃと笑ってから、思い直して頬をちょっとだけ膨らませた。
別にこれくらいの暴言で、今更傷つきはしない。私は確かに馬鹿なのだ。この子は事実を言っている。でもそんな私であってもここまで悪し様に言われれば寂しかった。
それに何だか、胸がどきどきするのだ。
頬に当たる風が、異様に冷たい気がした。身が切れそうな鋭さが痛くて、私は頬に触れてみる。濡れた感触が指を伝い、私は手の平を見下ろした。
……汗。
こんなに。
目で確認したら、もっと胸が苦しくなった。どくん、どくんと、血の流れる音が頭の奥で鳴っている。私、どうして汗なんか。運動なんて、していないはず。いつから? いつからこんなに? でもさっきから汗なんてかいていたっけ?
思い出せない。すっかり忘れてしまっていた。
でも、それよりも。
そもそも、この女の子は。呉野さんは。
どうして、ここに、いるんだっけ?
「……あんた、おかしいわよ」
呉野さんが、吐き捨てるように言った。
言い終えるや否や、私から数歩身を引く。まるで避けられたみたいで、私は少しぎくりとした。
「あの、呉野さん……?」
「いくらなんでも、忘れ過ぎよ」
「え?」
「小五よ? まだ五年も経ってないわ。私だって興味ない人間の事なんてすぐ忘れるわ。覚えてたって無駄だもの。……でも、あんたほどじゃないわ」
冷風が、身体にまた吹き付けていった。気付けば彼女の顔にはさっきまでの怒りはなくて、そんな変化にひやりとした。
怖がられているだけじゃない。私は、倦厭されているのだ。それが何だかすごく寂しくて悲しくて堪らなくなってしまって、「呉野さん」と呼びながら、私はベンチから立ち上がった。
縋るような私の声に、呉野さんの表情が動く。
まるで害虫を遠巻きに見るような目から、ほんの少し思案気な感じに変わった。呉野さんはそうやって私をしげしげと眺め回し、それから「ふうん」と頷いた。
「……なるほどね。あんた、『忘れてる』ってわけ。へーえ。そう。そういう事」
「……え?」
「分かったわ。あんたがどれほど失礼でむかつく女かって事が、よく分かった。ここには別の子を尾けて辿り着いたわけだけど……この偶然、なかなか面白いじゃない」
「呉野さん……?」
呉野さんは、にいと笑った。
赤い唇が攣れるのを見て、ああ、誰かに似ていると私は思った。
……凄く、悪い顔だった。
「貴女には別に興味なんてなかったんだけど、気が変わったわ。佐々木和音より、貴女の方が面白そうね」
「偶然? ……和音ちゃん?」
私は訊き返したけれど、呉野さんは答えてくれなかった。
代わりに冷徹な目で私を一瞥し、ぴしゃりと言った。
「風見美也子。私、貴女が嫌いだわ」
瞬間、息が止まった。
嫌い。
さっき私も、口にした言葉だ。和音ちゃんに向けて言った。この無人の公園で、私に意地悪な和音ちゃんに向けて、ここにはいない和音ちゃんに向けて言った。
それと全く同じ言葉を、今、目の前の子に言われた。
その言葉の意味を、私がきちんと呑み込むより早く――彼女の言葉が、冬の寒さを切り拓いた。
「――『風見美也子! いいえ、みいちゃん! 貴女って酷いのね!』」
木々の梢が、一斉にざわめいた。
「えっ……えっ?」
私は、驚いて声を上げた。
呉野さんの声が、何だかさっきまでと違っていたのだ。
綺麗な声の真ん中に、一本の太い軸が通ったような力強い発声。エコーが身体に木霊して、私の背中がびくりと仰け反る。声がお腹に叩き込まれて、震えが全身に広がった。あ、と声を上げると力がそのまま抜けてしまい、ベンチに背中がぶつかった。
「『みいちゃん! 貴女のその馬鹿さ加減、許しがたい罪悪よ! みいちゃんって酷い! 私の事を忘れるなんて酷いのね! あんなに仲良しだったのに! 友達の事を忘れるなんて最低だわ!』」
あ、と私は再び叫んだ。馬鹿。罪悪。最低。言葉がざくざくと胸を刺し貫いていく。赤いフィルターが視界に踊り、青い景色が血の色に瞬いた。私は何かを叫ぼうとして、叫びきれずに仰け反った。悲鳴は喉で潰れていた。言葉にならない声だけが、呻くようにひゅうと漏れた。視界が、真っ赤になっていた。
駄目。この色は駄目だ。酷い匂いのする色だ。錆びっぽくて汚くて、そしてとても痛い色。毬ちゃんの手の平と同じ。私は息を強く吸った。引き攣れたような呼吸を絞り、「呉野さん」と、決死の声を捻り出す。
でもそんな喘ぎさえも、次の言葉で掻き消された。
「――『あんなに一緒に遊んだのに!』」
今度こそ、息が止まったからだ。
あんなに、一緒に、遊んだのに。
耳の奥でごうごうと、空気の唸る音がした。言葉の矢が嵐のように次々次々放たれて、私の五臓六腑に突き刺さる。涙が、どっと溢れだした。
痛い。熱い。痛覚がじくじく刺激されて、頭が急激に痛くなった。ばちん、と金属音がまた鳴った。鋏だ。鋏が打ち鳴らされている。つんと香るのは錆の匂い。血の匂いに似たあの匂い。喉の奥に、血の味が込み上げた。ああ、また血が。私は自分の喉を両手で鷲掴みにした。目の奥でちかちかと白い光が点滅し、一気に眩んだ視界の中に、私は金色の光を見出した。
ああ、あの子だ。白いあの子。
黒いこの子が、白いあの子を連れてきた。
私は汗を滝のように流しながら、呉野さんの綺麗な顔を見上げた。ああ、やっぱり悪い顔。何だか亜美ちゃんみたいだった。綺麗じゃないはずのその姿に、白いあの子の幻が乗る。苦痛と甘美の両方で、私は大きく吐息をつく。口の端がぴりっと、電気に触れたみたいに痛んだ。それは、二度目の痛みだった。
「ふふふ、あはは、みいちゃんってば楽しそうね? いい顔で笑うじゃない。あんたって気持ち悪い女だけど、なあに? 何かいい事でも思い出したってわけ? それとも愚鈍なみいちゃんは、やっと私を思い出してくれたのかしら?」
呉野さんがくすくすと笑った。私はその台詞に愕然としながら、自分の頬に手を這わせる。
そして、本気で戦慄した。
私は、また、笑っていた。
「でもね、みいちゃん。駄目ね。まだ駄目だわ。まだまだ、全然、足りてないわ! ――『貴女は何を忘れたの? どうして忘れてしまったの? 貴女にとって小学五年の記憶って、そんなにまずい記憶なの? ねえどうして? どうして貴女は忘れたの? 別に忘れる事なんてないじゃない。それなのに忘れちゃうなんて大げさね? それとも忘れないとまずいものでも見ちゃったのかしら? 忘れてしまわないと都合の悪いものでも見ちゃったのかしら? その痛みは何? 貴女はどんな痛みから逃れたくて記憶を擲ってしまったの? 貴方が捨てたその痛み、今こそ思い出すべきよ。そして今すぐ発狂してよ? ずっと前から思っていたわ。貴女って何だか、とっても気持ち悪いのよ!』」
――もう、声にもならなかった。
気持ち悪い。また言われた。
もう、反論するだけの力もなかった。身体だけがびくりと震え、波止場に打ち上げられた魚のように、緩やかな死の痛みで痙攣した。
「『貴女の学校での姿、私は見てたわよ? 懐かしい顔だもの。他の子を見るついでにあんたの生活ぶりも見てたわよ? ……ねえ、風見美也子。貴女って自分では上手くやってる心算でしょうけど、貴女の女子社会での暮らしぶり、私に言わせれば最悪ね。それで自分の本心を隠せている心算なのかしら? 馬鹿ね、明け透け過ぎるわ。見ていたら分かるのよ。やるならもっと上手くやりなさいな。貴女、あの野島亜美とかいう下品な子の事……内心で、すごく馬鹿にしてるでしょう?』」
手が、ひくりと動いた。喉も嚥下の動きをして、言葉を何とか言おうとする。
違う。そう言いたいのに言えなかった。
本当に、違うだろうか?
私は本当に、亜美ちゃんを馬鹿にしていなかっただろうか?
和音ちゃんの顔が、不意に脳裏を過っていった。
私の事を気持ち悪いと、無神経だと言った和音ちゃん。毬ちゃんを馬鹿にしたと私を睨む澄んだ瞳。目の前の黒い死神と、その姿が重なった。
「かずね、ちゃ……」
涙が、頬を伝っていった。
もしかしたら和音ちゃんの言葉は……本当は、正しかったんじゃないだろうか。
でも、嫌だった。認めたくない。私は泣きながら頭を振る。私を気持ち悪いと言った子の言葉なんて、受け入れてはいけないのだ。私は気持ち悪くなんてない。醜くなんてない。決してそんな事はないはずだ。そんな事はないはずなのだ。
そして〝醜い〟という言葉が、脳裏をさっと過った瞬間――私は愕然として、呉野さんの綺麗な顔を見た。
今度こそ、きちんと思い出したからだ。
呉野さんの言う通りだ。私は忘れ過ぎていた。
どうして、こんな事まで忘れてしまったんだろう。あんなにも酷い事を言われて、それでも平然とこの子と会話ができたのだろう。
たった今、思い出した。
呉野さんがここへ来た時――私に、どんな言葉をかけたかを。
「あら、命乞い? 佐々木和音にはさっきフラれたばかりじゃない」
黒い死神が、声を上げて嗤っていた。でも私の心は動かない。感情が上手く働かなかった。ただ呉野さんの言葉の数々がたくさんの矢になって私の身体中に刺さっていて、刺さり過ぎて飽和して、体内に潜り込んだ刃の痛みで、声が全然出せなかった。
そんな私を一瞥して、呉野さんが眉を顰めた。
弛緩した身体をベンチに擲つ私を見下ろす目は、底冷えするほど怜悧だった。そんな視線を最後に、ふい、と呉野さんが身体の向きを変えた。
公園の出口へ。毬ちゃんが去り、和音ちゃんが去ったのと同じ方角へ。
私に横顔を向け、身体がすっと動いた。
「さよなら。みいちゃん。小五の貴女は狂わないまま退場したと思っていたけど、実はひたすら狂い続けていたのね。……精々、これからは美しく狂って頂戴な。そうでないと、観察し甲斐がないものね」
私は無言で、その背中を見送った。
呼び止める事は、しなかった。
……もう、それどころではなかったからだ。
頭の中で、ちかりと光が瞬いた。
その光の色は白。白いあの子が、記憶の闇に立っている。
でも私が絶句した理由は、白いあの子を思い出したからではなかった。
別の子の顔を、思い出してしまったからだ。
その情景を、私は写真のように思い出していた。
グラウンドの隅。白いあの子の姿を、じいっと見ている女の子。
おかっぱ頭。半端に長い前髪。その下から、微かに覗く――光の差さない、澱んだ目。
「紺野、ちゃん……?」
四年ぶりに口にした友達の名は、何だか久しぶり過ぎて、まるで他人のようだった。




