魔族の少年剣士
「じゃ、ギンカが敵将を討ったのは本当なんだな」「う~ん。やっつけたのは」
少女が認識している内容は『よくわからない龍もどきになった敵将を死者達の加護を受けて昇天を果たした裕子が倒した』なのだが説明が難しい。
そもそも普通の人間は竜にならない。死族は昇天を許されないというのが通説だ。
「本当なのか?! あの悪戯餓鬼が!? 快挙じゃないか!!」
少女の肩をぶんぶん揺らし、少年兵は叫ぶ。
やせぎすの少女は筋力に劣る筈の純魔族の少年に揺らされて頭がガクガクと揺れる。
「ちょっと違うの。私たちは生き残っただけで」「……?!」
愚かなやり取りをする少年少女をずっと放置していたフェイスこと『無貌のフェイス』。
魔王軍でもその実態を知る者のいない彼もしくは彼女は如何なる姿、如何なる種族にも変装できるという。
戦闘能力より偽装能力に優れ、先の敵将『忍者』討伐時に戦闘に参加できなかったお蔭で逆に生き残った経緯を持つ。
「失礼しました」「許さない」「許してあげようよ。『お姉ちゃん』」
そんな魔族の英雄が目の前にいるなんてこの二人。全然気が付いていない。気が付いていたらフェイスは廃業するが。
そのフェイスの手をもってすれば他人の変装もわけはなく、
少女はちょっと大柄な『子供たち』の一人の格好になっている。
「と言うか、『子供たち』の癖に大人しいね。キミ」
徐々に落ち着いてきた彼、エルは紳士的な魔族であった。
どうも頭に血が上るとおかしくなる以外困った処は無く、元は由緒正しい生まれなのだろう。
「そうだ。『子供たち』の相手をしている暇はない。魔王様をお救いせねばならないんだ」「??」
自分はこの純魔族に何か余計なことを吹き込んだっけと少女が思う中、少年はつぶやく。
「大精霊様の声を僕は聞いたんだ。水魔将様を。魔王様を助けてくれって」