大精霊の導きを
「では、健勝でな」「貴君の活躍、いつぞや見たことがある。よい『ぷれい』をする選手だったな」
魔将二人に見送られ、少女は魔王城を後にする。
恐らく、あの二人に合うことはもうない。会ったとしても『別人』だ。
炎魔将と風魔将は記憶を引き継ぐが、代々の魔王の手によって新たに創造される。
だから記憶は同じだが、人格は異なる。
荒れた焼跡を踏みしめ、少女は歩く。
魔王はこの後、城内に侵入してくるであろう勇者と戦うという。
戦争は終わっているのに? いや終わっているからこそ勇者は来る。
魔王はそういって笑う。だが死ぬわけにはいかぬと。
毬を手にふらふらと歩く少女を同行する『子供たち』の一人が導く。
「あぶないに。しっかりあるくにぃ」見た目は幼児だがその実力は大人も凌ぐという。護衛には最適だ。
『無貌の』フェイスと名乗ったその幼女。
彼女はその無邪気な仕草と反して油断なく周囲を見張りながら歩を進めている。
「フェイスちゃん」「にゅ?」なにか聞こえない? 少女はつぶやく。
確実に何か聞こえるのだ。助けを求める女性の声に似ている。
魔王の城を離れるほど、その声は大きくなっていく。
そのことを告げるとフェイスは首をぶぶんと振ってみせた。聞こえないらしい。
「聞こえる。誰かが呼んでいる」その少年兵とぶつかったのは奇遇ではないと少女は思っている。
「魔王様をお救いせねば」
少年兵は走っていた。
同行していた竜族の兵士の静止を振り切り、衝動のままに走った。ただ走った。
その過程で人間の少女を蹴飛ばしてしまった。
「ちぇ。血袋か」少年はつぶやく。
その少年を少女は頬を膨らませ思いっきりぶったたいた。
憤慨する少年兵に毬を手に怒りの声を上げる少女。
少女はそんなこと知らないとばかりに彼の皮鎧を掴む。
こんな果敢な人間の子供はあまり見たことが無い。思わず虚を突かれた彼に少女が口走った言葉は意外な名前だった。
「ギンカ君! 逃げろって言われたでしょ。あと何時怪我を治したわけ?!」「はい? ギンカを知ってるのかい」
今度は少女が両肩を掴まれて振り回される。
「ギンカは?! シロは?! 生きているのか?! と言うかアイツが敵将を一人討ったって噂だけど本当か?!」
戸惑う少女に少年兵は告げる。「ぼくはエル。旧ノーム砦、バルラーン絶対防衛圏の戦いの生き残りだ」と。