神聖皇帝様万歳!
「殺す。殺す。殺す……」
危険な発言を繰り返す元娼婦シズカ嬢だったが。
「……殺すって。 ええっと。ナニコレ」本来の素の性格が出た。
「ぶっころせぇえっ?!!!!!!!!!!!!」
そう叫ぶのは魔族軍に敗北し裁きの日を待つ人間軍の皆さん方。
シズカ嬢は人間であり、今の魔都の情勢では仕事らしい仕事はない。ウンディーネこと由紀子に貰った所持金も尽きてきた。危険だと言うが今の情勢なら魔都に人間の娘がいるほうが危険だ。
そういうわけでシズカは人間軍陣地に戻ってきた。今なら子供一人増えても気にならないだろう。
「ナニコレ」「『魔王様激love!』だけど?」こともなげに返答する少年。
「なんか魔族の軍事訓練らしいんだけど、負けた鬱屈を晴らすには丁度よくてさ」
「略して『ばすけっとぼうる』っていうらしい」「略していないわよっ?!」
外套に隠し持った長剣を取り落して叫ぶシズカ。足に当たってもんどりうつ。
その間にワラワラと出てきたゾンビ兵を人間軍の精鋭はぶん殴っている。
びちゃん。豪快なフルスイングを受けたゾンビ兵の頭はぶっ飛んでいく。シズカの足元に飛び込んできてこんにちは。「ひぃ?!」全然嬉しくない。
「この過激さとめくるめく試合展開が魅力なんだよな。何より魔族を思いっきり殴っても許されるし」
ちなみに初期のバスケットボールには人数制限はない。
「うおりゃあああああああああああっ?!」
ゾンビの生首を小わきに抱えて猛ダッシュする青年。それにワラワラとつかみかかるゾンビ。それをふみとばし、ぶん殴って人々は進む。
数の力は偉大だ。素手で有りながら人間に力で勝るゾンビを人々はボコボコ殴る。
というかボールを持っていないゾンビも棒でフルスイングしている。第一軍団不死部隊の皆さんお疲れ様である。
「神聖皇帝様万歳!!!!!!!!!」魔族の美少女が守るゴールに無理やりボール。もといゾンビの頭を叩き込んだ青年。ゾンビ汁まみれの手で仲間とハイタッチ。
「なにこれ」「だから、『ばすけっとぼうる』って言う魔族の軍事訓練。なんでもさ。人間の女の子が向うでは活躍しているらしくて、その武勇伝を魔族たちから……ってキミ」
「おーい。みんな。例のコが試合見ているぞ」「へ?」
人間たちの視線がシズカに集中する。
「おお。キミが例の英雄か」「竜族とガチで殴り合ったという」
知らない。ぶんぶんと首を振って否定するシズカ。竜族と殴り合う娘ってどんな化け物なんだ。シズカは必死で否定する。
「俺はデュラハンのチームメイトを助けるためゾンビ兵をバッタバッタとなぎ倒したって」そんな化け物この世に居たら『勇者』か魔将しかあり得ない。百歩譲って魔族の上位兵だ。
「全種族が魔王親衛隊を務めるデュラハンどもの首を全て刈ったのはこの子らしい」もう必死で首を振るシズカ。完全な誤解である。
「せっかくだから参加していってくれ!」「おおおお!!!!!!」
もうやけくそである。シズカは黒い鋼鉄の剣を握り、放り投げられた毬を手に走り出した。
人間たちが獲得したゾンビの頭を思うままに沢山投げる投げる。
シズカも狂ったように毬を取る。石を拾う。ゾンビの頭を掴む。
『人間軍側監督』と言うタスキをつけたデュラハンがシズカの背中をバンバン。何故か友達か仲間と思われているらしい。
そのデュラハンの首は大量に投げ込まれたボールだか生首だか石だかの中に混ざっている。
「魔王様激love!!」「神聖皇帝様万歳!!」
シズカは思った。「どうしてこうなった」