夢を抱いて眠れ
長きにわたって繰り広げられた戦争は終結した。
魔族軍の逆転勝利に終わった戦いだが、いつもの魔族たちの凱歌は響かず、のらりくらりと都市復興を始める人影が見えた。
勝ったという事実すら彼らには受け入れがたいのである。
戦闘が終結し、人間たちは武装解除をさせられた。
戦後処理が早くも始まり、魔族の男女たちが新たな計画書を手に魔都の復興に励んでいる。
人間たちとの戦後の協定は済んでおらず、彼らの処遇は魔王と魔将達が決めるであろうとの見方が多い。
「問題は水の魔女だな」「ウンディーネ様が人間どもに肩入れするのではないか」無責任な憶測が飛ぶ中、人間の捕虜の扱いにも意見が割れている。
「戦前から元々我々の血袋だったものはどう扱っても勝手だ」そう思うものも少なからずいるし、そもそも協定が出来ていないのに勝手に処遇を考えるものもいる。
早い話、復讐である。
人間を夜闇に浚い、むごたらしく殺す。
あるいは伝統の『鋼鉄の処女』に入れて血を絞り、生き血を飲む姿は魔都の彼方此方で散見された。
「人間は全て奴隷に」「良質の血袋を毎月一〇〇づつ届けさせろ」「領地を返してもらう」等々魔族たちの要求は跳ね上がる一方。
それをまとめる四天王、『水のウンディーネ』こと由紀子は。
「これは難しいな」「何処が。全て採用だ」「フハハ。甘美甘美」
同僚の莫迦っぷりに悩みながらも魔族側の案に近い案と、人間と和平を結ぶ案の双方の案の作成に追われていた。
別に人間に配慮したわけではない。
魔族は繁殖力に劣る。個体能力は高いが文化という概念が薄い。
世代交代の早い人間を敵に回せば今は一六〇〇〇〇の敵も将来的には一〇〇〇〇〇〇になるという由紀子の予言が尊重されただけだ。
人間たちの軍の天幕は魔都から遠く放されているがそれでも夜半に乗じて狼藉を働く魔族、ここぞとばかりに魔族の所為にして悪事に励む人間が横行しだした。
勇者、ヒサシは素手でありながらそう言った無頼の輩を懲らしめていたが限界がある。
魔族たちの強行案は更に酷いものになりつつある。
その反対に当たる和平案を練る由紀子は真剣だった。
強行案と和平案の双方をだして和平案を採らせる。そのために一言一句を吟味し、何度も音読して文字の一文字一文字を確認する。
~~ ゆっこ。いい加減休めよ ~~
「まだよ。たっちぃ」この案に魔族の未来をかけないといけないの。数百年。数千年に渡る戦いを終わらせないとダメなのです。ノームさんとウンディーネさんの夢の為に。
由紀子はそう呟いて、そのまま突っ伏して寝てしまった。
同僚の魔将二人は肩を竦めると、一人は優しい風を起こして毛布を呼び寄せる。
もう一人は自らを程よい暖かさにして、念話にて会話を続行する。
「……私は寝ていたのか」「いや、気のせいだ」「その通り」「すまない」
由紀子はよだれを拭いて職務に復帰した。一瞬のつもりが朝になっていた。
由紀子は気の利く良い同僚に恵まれている事実に感謝した。