ルール無用の悪魔共めッ?! 「魔族だ」「その通り」
「水奈子」「なんですか。ゾンビマスターさ……芳一」
珍しく夫婦の時間を過ごす二人。
本当はラブラブなのだがお互い異性に不器用な処があって気持ち硬い。
ゾンビマスターは結構勇気を振り絞って妻の『名前』を呼んでみた。
やっぱり二〇〇年近く歳下の妻とは話が合わない。
水奈子ことセイレーンもまた素直さに欠ける年頃の乙女である。
本当はあんなことをしたりこんなことを言ってもらいたいとか少し思っている。
彼女は卵生であり、そういった色気と無縁だが。
緊張してギクシャクする二人。文学物語に書いたような初々しい二人である。
年端もいかない全裸の少女(※セイレーン族には衣服を纏う習慣が無い)と腐った死体でなければ画にしてもいい。
「心臓がもげそうだ」「ゾンビマスターさま。玄関でピチピチしていましたよ」
おお。すまんすまん。拾っておいてくれ。軽く返すゾンビマスター。
平然とピチピチ跳ねる心臓を手にぼやく水奈子ことセイレーン。やっぱり死族の妻は気苦労が多い。
「このルールが解らぬ」「海戦にも作法とルールがあります」
二人は海軍提督とその副官だ。
年端もいかない少女であるセイレーンがその職務を引き継いだのは最近である。
「身代金を受け取るためには鼻や指や耳までしか削いではいけないとか」「多額の身代金を得るためにはそれも不可能だな。そう説明してくれれば解る」
なにか。なにか違っている。
「午後三時のティータイムは休戦とか」「理解出来るな。そう言ってくれれば良かったのに。由紀子殿もお人が悪い」
由紀子は地味に二人にとって結婚のきっかけを作った恩人である。自然ゾンビマスターの言葉も柔らかい。
「海に毒を投げ込んだ場合賠償金を支払わなければいけません」「そうだ」
「敵の持つ積荷の徴発も慣例法に基づきますよね」「その通りだ。だいぶ覚えてきたな。水奈子」
敵同士であっても暗黙の合意が無ければ成り立たない部分がある。
「つまり、お互いの利のため、敵同士であっても決まり事を守るのは『キューギ』も同じと解釈してよろしいかと」「素晴らしい。水奈子。さすがだ」
ゾンビマスターの腐った頬に唇を寄せて蛆を食べてしまう水奈子。セイレーンは微妙に人間と食べるモノの嗜好が違う。
一方。二人に忘れ去られているゾンビマスターの心臓は相変わらずビッチビチに跳ねていた。
やっぱり死族は変わっている。