再戦
「ははは。さっきまでの威勢はどうした」
踏み潰す頭が無い事に気が付いたオズワルドは忌々しげに遠くに蹴った頭のほうに視線を飛ばす。
瓦礫の中で転がっているニンゲンの頭は一言も発さない。
「死んだか。あっけない」唾を飛ばして肩を竦める。
結論で言えば未熟な裕子ではオズワルドには全く歯が立たなかった。
鎖の一撃で装甲版を砕かれ、続いて放たれた拳の一撃でかろうじて差し出した腕を砕かれた挙句壁に叩きつけられて裕子は動きを止めた。
遠くの頭は声すら放たない。
「これじゃ犯しても面白くねえ」オズワルドはそう言いつつ裕子の鎧を剥がしていく。
呻き声が聞こえてオズワルドは嗤う。「お。目覚めたか。そうでないと面白くねぇ」
そういって鎧下にナイフを入れて引き裂こうとしたその時。
「てぇい」ぽか。
思いっきり棒で打ち据えた筈なのだが棒が砕けた。
驚く少女に振り返るオズワルド。どうみても戦場に似つかわしくない貧相な血袋の少女。
「なんだてめぇ? 」ちなみに敵の捕虜だから助けようなどと言う感性はオズワルドにはない。
がたがたと震え、蒼白な顔をした少女は逃げ出すように下がると瓦礫を掴む。
「ゆうちゃんを苛めるなッ 」叫んで瓦礫を投げる。狙いは大きく外れてオズワルドの足元を転がった。
「なんだぁ? 貴様ぁ? 」さしものオズワルドも呆れてしまう。
ひ弱な少女がそこいらのゴミを投げつける姿はある意味微笑ましいが。
「やべぇ。あいつオズワルドだ。殺されてしまう」「うわ。何やってるのあの子」
通気口から見守る二人はドン引き。
「助けに行こう」「無理言うな」子供の二人では手に余る。
しばし頬を掻きながら少女の成すままにしていたオズワルドだが別に何時でも殺せるために判断に迷っていただけである。
曰く。犯すにしても貧相すぎる。食うにしても細すぎる。殺すにしても面白くなさそうだ。
「来るな」遠くから裕子の声が聞こえる。
「ゆうちゃん。私も戦う」そういってペチペチとオズワルドの足を叩く少女。
面倒になったオズワルドは鉄靴で少女を蹴飛ばした。
「あっ」「ヤバいな」
少年は思案する。純魔族は身軽さと魔力と異能の力を持つが真価は悪賢さだ。
ただ、少年はその真価の部分に欠けていた。一言で言うと短絡的。
「おっさん。こっちだ! 」『風の声』で別の位置から声をかけて石を投げる。
石と言っても拳より大きい。魔法の補助で力強く打ち出された瓦礫はオズワルドの頭を直撃。砂となって砕け散る。
しかしオズワルドは眉を軽くしかめただけだった。
「ええっ?! ばけものかよ?! 」少年は驚くが貴様が純魔族だ。
通気口に逃れた少年だったがオズワルドの拳が通気口の入り口を叩く。
粉々になった通気口の入り口から人の手が伸び、通気口を砕いていく中少年は両手を使って四つん這いで走りつつ逃げる。
「何コイツ?! 人間じゃねえ」「ニンゲン様です♪ 」
オズワルドはおどけると口を大きく開けた。
「―――――――――――――――」
少女は耳を強く抑えて悶えるだけで済んだが聴覚の発達した純魔族と犬頭鬼にはたまらない。
激痛に耳を押さえ、吐き気に悶え、臓腑が裏返るような不愉快感でのたうつ。
聴覚に頼らない聴覚を持つ死族の裕子の首が「『音響攻撃』?!」と叫ぶ。
本来ならば魔族の一部しか使えない異能の力だ。
「そのとーり♪」オズワルドはにたりと笑い、地面に蹴り込むようにして鎧ごと裕子の両足を砕いた。