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戦端

「逃げろッ!」


 彼女は右手に手綱を左手に自らの生首を持って戦場に赴く。

空に広がる白い輝きは人間の犯罪者がその身を変えた落下傘。

最も魔族側に落下傘部隊という言葉は無いが。

穴を掘って城壁の下から魔法攻撃で城壁を崩す地雷戦対策に地面に埋まったツボを耳に当てていた子供やエルフたちが耳を押さえて悶えているのをみて彼女は舌打ちをした。音響攻撃を受けたらしい。

空を舞う同族の戦車から放たれた備え付けの連続式クロスボウの一撃を受けて白い布のきらめきは赤黒い塊となって地面を汚した。


 空より懲罰部隊、地面の底から地雷戦、城壁からは大型兵器と魔法攻撃。

人間側はその膨大な数を頼りに三つの戦場を作って攻めてきたのだ。

戦力を分散すれば力を削がれる。魔族とて皆飛べるわけではない。

補給部隊に配属された彼女が前線で迎撃を行っているのは空で戦える魔族が足りないからだ。


 左手の生首の聖痕から人を斬るごとに血が溢れだす。

銀の戦車の車輪から槍が飛び出し、刃が敵を切り刻む。

首無し馬の首から滴る毒の血を浴びて悶える敵を轢きつぶす。

「調子に乗りおって。人間どもめ」悪態をつく彼女は自らの手で喉を突いて死んだ裸の娘のかっと見開かれた目をその手で閉じる。

その間にも彼女の戦車は意志を持つように空を駆け、魔都に侵入せんとする不埒な懲罰部隊に所属する人間の犯罪者集団の落下傘を血と骨の塊にしていく。

「落下している間は無防備だ」そういって剣を抜き、降下した残党を倒すために進む。

時間が来れば敵は敵陣に帰還してしまう。それまで耐えるかあるいは斬るか。

彼女は『斬る』選択を選んだ。

しかし、彼女、デュラハン族の『裕子』の本日の運勢は大凶だった。


『ゆうちゃんておみくじ弱いね』


 占いの札が入ったクッキーをみながら同居している人間の少女が呟いた言葉を思い出す。

「こんな大物が現れるとはな」彼女は剣を手にその男に声をかけた。

涙と血を流しながら絶命している娘を投げ捨てて敵懲罰部隊を率いる男は裕子に振り返る。

死して尚汚される娘を見て同性としての本能的恐怖よりデュラハンとしての怒りが優った。

彼女の手にした生首の『聖痕』から血が迸り、彼女の魂に『正義を成さねばならぬ』という焦燥が溢れる。

「その汚いものを隠せ」死して尚汚される娘と汚しつづける巨漢の男。

 裕子は油断なく剣を構える。盾は持っていない。持てない。

「貴様、女かぁあっ? 」「見ての通りだが」裕子はズボンを上げずに斬りかかってくる男に冷静に対処したつもりだったが。

「ぐっ」デュラハンの怪力をもってしても片手剣で防げないほどその男の膂力は強い。腕が痺れる。

「貴様、本当にニンゲンか」「そのとおりぃっ?!! 」

悪態を思わずついてしまう。なんという怪力だと。

「オズワルド……殿とお見受けするが」あえて裕子は騎士らしく言葉をかける。

「小娘、お前の味はどうだろうな。首が無いのがちょっと残念だが」

オズワルドの言葉に裕子は思わず悪態をつく。「獣め」

手に持った生首の瞳がすぅと細まり、言葉を紡ぐ。「死ね」

オズワルドの背の壁が瓦解し、岩が飛び散り梁が裂けて吹き飛ぶ。

大きな音と共に崩れる壁と背後から飛び出した裕子の操る戦車がおぞましい敵を轢きつぶした。

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