デュラハン様。そのキューギとやらは。
「う~む」
自らの生首をクロウリーの六芒星を思わせる星を描いた祭壇に捧げ、
顎のあるべきはずの処に指先を添えて考え込んで見せるのは魔王軍第一軍団は魔王親衛隊及び黒騎士団を率いるブラックナイトこと黒騎士デュラハン。
『勇征』と言う名を持つ『名有り』である。
「籠球(※バスケットボール)の決まり事」
由紀子から受け取った紙には戦いを是とする魔族である彼には理解不能な『決まり事』の数々。
女子高生である由紀子が思いつくままに書き綴ったものなので要領を得ない。
人にものを教えたりノートの取り方に定評のあるという武田彰子なる大精霊が誠に存在するならば詳細を教えてもらえたのかも知れないが。
「走ってはいかんのか」バスケはドリブルせずボールを持ったまま三歩以上進んではいけない。
「地面に己の頭蓋骨を叩きつけねばならぬのか」違う。そして弾んできた頭蓋骨を再び地面に叩きつけながら進む必要があるらしい。
「しかもこの『どりぶる』を自軍の仲間に頭蓋骨を渡すまでに二回やってはいけないということは」地面に転がして蹴飛ばせばいいだろう。そうしよう。
「遠くから投げるほどに特典が変わる」か。
正確には『特典』ではなく『得点』なのだが。
由紀子は微妙にマヌケな誤字をする。
最大距離から投げて籠に入れることが出来た場合、最高の栄誉を与えるべきであろう。
「魔王様のキスを頬に受けることが出来るような……か?! 」それは身震いするほど恐ろしく素晴らしい栄誉だ。確実に婚期を逃す。
「籠。籠か」
籠を自陣の美女が持ち、最終防衛線とする。
籠を反らして敵陣の生首を入れさせないのが彼女たちの職務である。
「しかし、我らが陣の最終線を第一軍団副官、ニンフ殿に任せるのはどうか。水魔将様の妹とはいえゾンビマスターと腐れ縁だ。いざというときにゾンビマスターに肩入れされても困る」
ジジジ。灯りとなる香油が焦げていき、時間が過ぎていく。
星々は今日も死族の彼の思案を見守り続けてくれる。
「手紙を」「はい」
血袋の幼子(実は少女なのだが誰も知らない)が手紙を持ってくる。
デュラハンは頭のない首にペンを突き刺し、優雅にペンを動かして血と体液をもって書を作る。
祭壇に置かれたデュラハンの首は静謐な表情を浮かべその真意を血袋の少女も図ることが出来ない。
デュラハンの丁寧に書かれた書はすばやく血の混じった蝋にて封をされ、
『子供たち』の手によって彼の上司の妹、第一軍団副官ニンフの元に届けられた。
その驚くべき内容とは。
「ニンフのばーかばーか。やーいやーい。ゾンビマスターにふられてやんの~ m9(^Д^)プギャーwwwwww くやしいのう くやしいのう」
……激昂したニンフは書を地面に叩きつけ、何度も踏みつけてゾンビマスターの得点を許さぬと誓った。
ましてや魔王様のキスを受ける?! 許さないッ?!
書を素直に届けた『子供たち』の一人はニンフに八つ当たりされて泣いていた。
「『血袋』から教わった挑発の書面。役に立ったようだな」
デュラハンはそうつぶやくと来るべき『試合』へ向けて静かに闘志を燃やす。
余計なことを魔族に吹き込んではいけない。何者だその『血袋』。
さてさて。
ニンフは第一軍団長『水のウンディーネ』の妹であり副官である。
すなわち本来ゾンビマスターやデュラハンから見れば立派な上司なのである。普段から腐れ縁のゾンビマスターにからかわれているが。
残業手当:〇ブラッド
深夜手当:〇ブラッド
危険手当:〇ブラッド
翌月の給与明細をデュラハンは中身も見ずに捨てた。
死族は既に死んでおり、不老長寿であり、給金に興味を示さない。
やっぱり死族は変わっている。