SlimeTank
勇者と呼ばれる人間たちにも色々な連中がいる。
彼らは各国の魔導士と最強の魔導士でもある大陸の宗教指導者『神聖皇帝』が異世界の彷徨える魂を呼び出し、新たな肉体を与えた耐魔王兵器である。
この世界の人間とは根本的に違う感性を持っていると言っていい。
軽快にバットがボールを弾く音がした。
「またやっている」大柄の男が肩を竦める。隣の美青年は諦めたように終始笑顔。
長身の美女は詰め物を疑われるほどの大きく形の整った胸を両手を組むことで寄せあげ、小柄な少女は彼女の背中に抱き付いてうなじを舐めだした。小さく嬌声をあげる長身の美女とふざけて笑う少女。
彼らを人々は『勇者』と呼ぶ。
『山の国』が誇る『勇者』は『戦士』エアデ。無類の怪力を誇る。
『湖岸の国』が誇る『勇者』は『忍者』ツェーレ。独自の術と驚異の身体能力を誇り、実体を持つ分身は剣も魔法も通さない。
『鉱山の国』が誇る『勇者』は『魔導師』フランメ。
彼女の歌声は天に届き、雷や隕石となって魔族の軍を滅ぼす。
『海の国』が誇る『勇者』は『僧侶』ヴィント。終始紳士的な態度を貫き、神の奇跡を自在に操るがその実態は破戒僧である。
そのリーダーとされる男は大陸中央の都市国家の王にして謎多き『勇者』である。
と、まぁ魔族に怖れ憎まれる彼らではあるのだが。
「おら行ったぞ」皮をしっかり縫って作ったボールは綺麗にとんだ。
久は戦場を離れると野球好きの一面が出てくる。こまった勇者様だ。
「どうして私が」長身に無理やり何処からか取り出した野球装束一式の魔導士がぼやくと、その隣の珍妙な服装の娘がため息。「似合ってるよ。フランメちゃん」「ありがとう」
「ボール砕いたら後でしばくぞエアデ」「ヒサシ。貴様な」
「バットを粉々にしてもしばく」「横暴だろう」
飄々とスコアボードに目をやる美青年は捕虜の魔族の美女や従軍してきた娼婦たちに囲まれながら優雅にその様子を眺めている。
「オズワルド君。キミも参加しようという気はないのかね」彼が呟くと後ろにいた男は肩を竦める。「ヒサシの酔狂には付き合えないね」「ふふ」
この男は残虐極まりなく、目についた村は魔族の村だろうが人間の村だろうが襲って英気を養うとされる筋金入りの犯罪者だ。懲罰部隊を率いる。勇者ではないが勇者以上に魔族の将たちに憎まれている。
「ヒサシはなかなか死なないな」何度も暗殺の機会を逸しているオズワルドは呆れている。「あの男はしぶとい。ああだこうだ煩いですが悪い男ではないのですよ。オズワルド君」
「しかしスライムから高級油を作成とか、うちの大将も斬新と言うか気持ち悪いというか」そう発言した青年はオズワルドに気づいて身を固めた。
ニヤリと笑うオズワルド。彼の気まぐれは時として死体を生む。
容器の中でビチビチとはねるスライムを眺め、美青年は苦笑する。
「暗視能力を持つ魔族に夜戦を挑むのはこの世界ではあり得ない。故にやる価値がある。ヒサシ様の策がどうなるか今から楽しみですね。オズワルド君」
「あいつのチェスの腕は俺が保障するぜ」奇妙な友情を見せるオズワルドに微笑む『僧侶』。
「チェスと戦場は違います。今夜ゆっくりと私の部屋で」「お前みたいなのは好みじゃない。殺すぞ」
殺すと言った瞬間には斬りかかる男であるオズワルドだが、その表情が変わる。
確かに鉈を叩き込んだ『僧侶』は平然と立ち、微笑みを浮かべ続けていた。