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異世界バスケットボール 魔王様激love!  作者: 鴉野 兄貴
思い出は胸の中だけに
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テニスの魔王様

「魔王様。本日の執務です」


 どかどかどかどか。物凄い量の書類を積み上げられても平然としている魔王だがその両耳はだらしなく垂れ下がっていた。

「私も副官が欲しいものだ」「ですねぇ」隣にいる娘は水魔将ウンディーネ。すなわち由紀子である。

引き継ぎもロクにできず、親友の意志を継ぐ形でその場の勢いで魔将になってしまった由紀子はノームやゾンビマスター、勇征や先代様が戯れで指導していた以上のデスクワークは慣れていない。そもそももともとは女子高生である。

結果的に隣でバリバリデスクワークをこなす土魔将共々魔王様のお手伝いをする羽目になっている。お手伝いと言うより見習いだが。


「おと……ノーム」


 由紀子の言葉にピクンと動くノーム。

「今、お父さんと」喜色満面で振り返るジジイ。

「言っていません」由紀子は頬を膨らませて言ったことを言っていないことにした。

一言いうとこの義父、喜びのあまり仕事に身が入らなくなる。

とんだツンデレジジイである。

「そうかそうか。お義父さんが何でも教えてやろう! 」

「……」「……苦労するな。由紀子」


 ため息をつく女子高生と魔王様に上機嫌のノーム。

ノームが機嫌が良いことなどまずない。雨でも降るんじゃないだろうか。

上機嫌で手とり足とり実務の奥義を女子高生に叩き込むジジイだが、仕事脳というのは段階的に『無駄』の無い方法を排除して考えるとか、

どんな複雑な仕事でも上司が細かく細分化して能力の劣る者にも出来るようにする采配が必要だとか、そういう脳みそそのものがまだできていない女子高生に説明するのはどうなのか。土魔将。

それでも必死で超人的な政務力を発揮する義父や魔王についていく由紀子。哀れである。

「数字や『レシートケイサン』は便利だな」「うむ。不正が激減した」魔王と土魔将。恐ろしい勢いで書類をめくり、あっという間に不正を暴いていく。

様々な小手先の不正で魔王や土魔将を謀ろうとした愚かな木端役人は明日は胴体のない自らの身体を嘆く羽目になるであろう。

「しかし一〇進法は慣れないな。一二進法や六〇進法でいいではないか」「三〇進法でもいいな」「慣れれば解りますけど、私は一〇進法で数字を覚えていますから」「しかし割り切れないではないか」「むうう」「人間の指が基本右左で一〇本だからでしょう。魔王様」「なるほど」

種族によっては二進法を採用している。


 そうやって激務を終えれば太陽はとっぷり暮れ、

爽やかな夜風と幻想的な青色の空、輝く星々と惑星を覆う『輪』。そして月が輝く夜になる。

魔王はひとり月の光を全身に浴びながら私室の窓に腰掛けて恋愛の詩集を優雅に読みだす。彼女なりのオフの過ごし方である。

ちなみに言葉に出すと首を斬られるが彼女はいまだ喪女である。

『魔王の夫になる人はこれほどの特典がある』という法案を議会派に提出しようとしたところ四天王全員一致で却下されたのも一因する。


「魔王様」「だらしない。しかもはしたない」


 時々私室にノックもせず(物理的に出来ないのだが)入ってきては苦言を放つ彼女の魔力と魂から生み出される魔将、火と風に眉をしかめる。

「良いところだったのに」「良いところではありません。たまには運動でもしたらどうですか」「年中引きこもって詩集読んでいるか執務しているかではないですか」

彼ら二人は散々な勢いで魔王をからかう。

曰く。デブる。エルフは太らない。曰く。禿げる。エルフは禿げない。

曰く。運動不足で更年期障害になる。エルフは歳を取らない。

曰く。魔軍屈指の戦士でもある魔王様が運動や剣術の稽古を怠ってどうするのか。彼女は運動が好きなほうではない。詩集を読んでいるほうが好きだ。

 耳を垂れ下げ、詩集のページを閉じて呟く魔王。少し手が震えている。機嫌が悪いのだ。

「私の運動神経が疑わしいというか」「ええ」「ちょっと」

創造主と創造物の関係なのにどれだけ心配されているのだろうか。魔王様。

「テニスでもする」「ははは。あれは第一軍団で多大な被害を出したキューギではありませんか」

「執務を任せた。『うぃんぶるとん』で一位を取ってくる」

がたんと立ち上げり、ぶわっとマントを翻す魔王。

魔将二人が気づくと既にその姿はない。

「またか」「まただな」呆れる二人。とりあえず他の魔将や議会派の目を誤魔化しておこうと二人は同意し合う。


 次の日。誇らしげに飾られた良くわからない置物を見た炎魔将は『悪趣味です』と正直に告げた。

風魔将に至っては『睡眠時間を削って異世界で遊んでこないで仕事してください』と更に叱り飛ばした。

民衆の前では威厳に満ちた魔王様だが、創造物ふたりにとってはそうでもないらしい。

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