夢はありますか。
光の中を師弟は歩む。
「夢。ですよね。デュラハン様」勇征様。
「夢は時として真実以上に真実だ」手甲の感触は硬くて冷たいのに力具合は柔らかくて何処か日の光を感じさせる匂いがする。
「ゆうこちゃんがシーツ干してくれたのかな」窓がある部屋だとできなくはない。
「死族と違って人間の子供は繊細だからな」「あら。おほめ頂き光栄で御座います」「子供の癖に妙に聡い」「ふふ」
風を切る音と共に大きな球が遠くから飛んでくる。少女はそれを受け止めた。
「夢はあるか。お嬢ちゃん」かしゃん。かしゃん。
ウールで出来た球を持って錆だらけの鎧が姿を現す。
そんなものはない。からっぽのままとつぶやく彼女に鎧はフェイスを上下させて確かに笑ってみせる。
「からっぽってことはすべてを詰め込めるってことじゃないか」そうですね。空海さん。
「夢が無い。夢が破れた。夢は叶わなかったと皆は言う」
師匠の声が響く。その手甲は彼女の掌と重なり、繊細な絵を描いていく。
「だが、諦め、苦悩し、絶望しながらも歩みを止めないのは夢を見続けていると言えなくないか」「そーそー。デュラハン……様の言う通りッス」
勇征に睨まれて慌てて『様』をつける空海。首無し騎士と動く鎧の寸劇を見せられて微笑む少女。
「少女よ。良い夢を見なさい。空っぽの夢に翼を広げて」桔梗の声。いやウンディーネだろうか。
「ねぇ。ねぇってば。今日の試合は血袋同士の試合だけど」
急に現実に戻された少女は首を振る。白昼夢を見ていたらしい。
「どうするの? 出る? 」「えっと。うーんと」小さな身体に小さな腕を組んで真剣に考えている少女に微笑む祭壇の上の乙女の生首。
「出ます」「そ。実はともちんに出てほしいって願いが血袋達から届いているらしいの」
急いでね。急き立てて食事をさせる首無し騎士の乙女にほほ笑む少女。
その微笑みがしかめつらに。食べ物から妙な臭いがする。
「ゆうちゃん。これ、ちゃんと昨日の晩煮た? においが」
「うん? 朝一回煮たよ? 」「昨日の朝作ったの間違いだよ」
死族は食中毒にならない。やっぱり死族は変わっている。