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お掃除をしましょう


風魔将はその気になれば魔王城を小さな排気口含めて一〇分で完全に綺麗にする能力を持っている。しかし魔王の放った台詞はもう少し重大な意味があった。


『魔王城おもてなし掃除』


 その単語を聞いて三人は震えあがった。

「ゆ、勇者たちが魔王様の命を狙ってくるのですか」「近いうちに必ず」

小さく頷く君主に泣きつきそうな勢いの三名。

「今回は南京虫程度で済んだが魔蠅などを持ち込まれたらたまらん。

繰り返すが私物は持ち込むな。購入履歴の残る業者を通して買え。

人間の軍のように衛生管理の不備で都市が壊滅など洒落にならんからな」

余談だがこの世界には現実世界以上に厄介な寄生生物や病原菌が存在する。

「と、言う訳で勇者たちをもてなす準備をせよ」軽い口調で命じる彼女らの王に三人の娘の瞳は複雑な色を湛えていた。


「結局無罪放免ですか」「鞭打ち一〇〇は命じた。彼女たちなら自分で傷一つ残さず治せる」「お優しい」


 かび臭い通路を歩く魔王と風魔将。

風魔将は複数の実体を持つ。一〇分もあればこのかびの匂いも死滅する。

事実、二人が通った後はチリ一つない綺麗な通路と部屋になっていた。

「わざわざ勇者を招きよせるような真似をするのはどうかと思います」「慣例だからな」


 魔王だの魔将だの勇者だのが本気で暴れだしたら甚大な被害が出る。

それを防ぐために結果的に毎回魔王や魔将や勇者が戦闘要員以外のいる区域に入り込まないように魔王城をあらかじめ掃除して片づける必要がある。

必要ならば結界も張る。勇者たちや魔将の中には禁呪である『核爆裂』等を使いこなすものが少なからずいる。こんなものを居住空間等で考え無しにぶっ放されてはたまらない。主に周囲の農民が。

人間たちが差し向ける勇者側も無辜の人々を巻き込まないよう、最後は暗殺者よろしく少数で侵入してくることが多い。ここに大軍で迎え撃てば勇者は撃退できても大量の兵の損失を招く。

結論を言うと魔王と魔将、一部の精鋭兵と勇者たちが戦うだけのほうが被害は少ないのだ。

「魔王などただの魔導人形だ。再生産すればいい。『代役』も無能ではない」ちと怠惰だがとぼやく魔王に頷く風魔将。

「アレはなんとかならんのですか」「滅びたとはいえ竜族の後ろ盾があったからな。議会派は粛清したが民の意志を尊重するためには議会は消してはならん」

それにアレは客人でもある。とぼやく魔王に苦笑いする風魔将。

「そういえば水の。前の水のです」「その話はするなと言った筈だが」

「前の『私』の記憶ですので聞き流してください」

風魔将と炎魔将は魔王が滅びれば一旦滅ぶが前の記憶を受け継ぐ。ある程度性格も。性格のほうは炎魔将のほうが余分に受け継ぐ傾向がある。彼は再生も司るからであろう。


「『楽しかった』と言う記憶があるのですよ」「辛いだけだった筈だがな」


 今でこそ魔族の大部分を占めるニンフだが当時は神とは名ばかりの奴隷と変わらない扱いだった。

気まぐれに『前の彼』否、『彼女』が自由を司る剣を一人のニンフに与え、そこから始まった物語についてはひょっとしたら別の処で語るかもしれない。


「水のはどんな思いでこの城を駈けたのでしょうね。貴女を守りながら」

「今回の勇者共は違うからな。先の水のや『勇征』と一緒にするな」「ですね」

今までの勇者たちは唯唯諾諾と運命に従うか、あるいは反発しながらも己が破壊力を自覚して魔王に対しては暗殺者のように単身で挑んでくるか戦場での一騎打ちを挑んでくることで決していた。しかし。


「あの久と言う男は違う。己が手で、この世界の人間ども。そして我ら魔族自身が己が手で掴む自由に意義を見出している」故に流れる血も多い。

「異世界から召喚した異物と人形が相争うだけならば被害も少ないだろうに」憂いを秘めた魔王の瞳は掃除によって綺麗に磨き上げられた子供の玩具に向けられる。誰かが忘れていったものであろう。


「貴女は人形ではありません」子どもの玩具を己が暴風で拾えない風魔将は続ける。

子供の玩具を手に小首を傾げる魔王に風魔将は告げた。

「『魔王様激love!』ですから」「やめんかっ?! 恥ずかしいッ 」一気に頬に朱が差す魔王。


 フハハと笑いだす風魔将に膨れ面の魔王。下々には見せられない姿だ。

今頃三人娘は城内の衛生管理や拷問を司る炎魔将配下からみっちりお仕置きを受けているのだろう。

そう思うことで魔王は昔話を思い出すのを避けた。

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