ククク。奴は四天王の中では最弱……。
「ウンディーネがやられたか」
暗黒の中、蒼い炎がポツポツと灯る。
「ククク。所詮女の身だな」炎を灯したのは全身が火炎に包まれる男だ。
彼の掌は汗を流さない。彼の瞳には涙は流れない。
「残念だった」乾いた唇の端正な顔立ちの男が呟く。
「愉快なヤツだったのに」つまらなさそうに暴風を纏う男がぼやく。
「何を遊んでいる。貴様らは」
『魔王ディーヌスレイト』の言葉に一斉に膝まづく彼ら。
彼らは魔王軍は魔王直属の将、四天王である。
「魔王様ッ 」「ウンディーネは死んでいない。そうだな? 」
公式にはそうなっているし、兵たちもさほど気にしていない。
その程度の人材ではない筈なのだが。あの『水のウンディーネ』は。
「ええ」乾いた肌の美形の男はつぶやく。
「しかし義娘に務まるでしょうか」「はて? 貴君の義娘は第一軍団の慰問中、敵の強行偵察に巻き込まれて亡くなった筈だが? 」
冷淡に告げる魔王。その手は報告書を握りしめ蒼白から色が変わってきている。
「由紀子には無理です。今からでも遅くない。別の将を立てるべきです魔王様」
全員が振り返る。
話を切り出したのは魔王自らの魔力で生み出された筈の炎の魔将である。
鼻白む魔王に処分覚悟で進言する炎魔将の耳に暴風の音と共にフハハという嘲笑が聞こえた。
「なんだ? 風の」暴風に包まれた男を睨む炎の将。
「お前が由紀子という血袋を気に入って『いた』のは知っているが。少し幻覚を見るには若すぎる」「なんだと」
「これを見ろ。これを」
くいくいと顎で示す風魔将。
空間の一部が切り出され、とある風景が浮かぶ。
「魔王様激love!!!!!!!!」いきなり場違いな歓声が部屋に飛び四人一斉に噴き出す。
ボールを手に持ったまま気絶しているのは幼い少女。
少々前後するが、水軍提督ゾンビマスター率いる魔王第一軍団水軍所属のゾンビとスケルトンに囲まれた少女は危機に陥っていた。
上にボールを持ち上げてパスすると見せかけて背を縮めてドリブルで抜こうとするもそれを察知したスケルトンが身体を分解して阻む。
「ゆうちゃんッ 」「任せろッ 」
任せた相手が悪かった。
若きデュラハンの娘は少々粗忽な所がある。
突如現れた馬車に真上に吹っ飛ばされる死体と少女。
無理やり召喚危険。絶対ダメ。
「行くぞ。此渓ッ!! 」へんじがない。ただのしかばねのようだ。
「パスだっ 」「おうッ 」
『裕子』は右手から左手に速やかに生首を切り替え、
お手玉の要領で歳の離れた親友を投げ飛ばす。良いのか。
気絶から覚めた少女が叫ぶ「ふひぁぁぁあああっ?! ゆうちゃん酷いッ?! 」
「ダンクシュートだっ?! 」それをひっつかんだ食人鬼の娘が水軍ゴールを護るセイレーン、『水奈子』の持つ籠に迫る。
「うっひゃぁあ?! 」思わずセイレーン水奈子も慌てて籠を投げそうになり、そのまま少女を両手で受け止める。
「……」目を回している少女をため息とともに抱きしめる水奈子。
「魔王様激love!!!!!!!!」「魔王様激love!!!!!!!!」「魔王様激love!!!!!!!!」「魔王様激love!!!!!!!!」「魔王様激love!!!!!!!!」「魔王様激love!!!!!!!!」「魔王様激love!!!!!!!!」
あんまりな状況に思考停止していたが、担架を呼ぶとともに指示を飛ばす『水魔将』。早い話が由紀子である。
「……ぼーる回せッ 」「はい。解りました。水魔将様」
魔将の台詞に忠実に従う岩巨人の青年。
水魔将の身体が3Pシュートとなってニンフの護る親衛隊ゴールに飛んでいった。
その様子を漆黒の部屋にて魔王を含めた四名は黙って見ていた。
「問題ないだろう」「だな」「だな……」「不本意ながら義娘は兵に人気があるようだ」
風魔将の言葉に魔王、炎魔将、土魔将はつづけた。
「まぁなんとかなるだろう」四人はそうつぶやく。いいのか。
由紀子は膨れ顔のニンフに抱きしめられながら鳥取に残した親友の声を聴いていた。
「ああ。大きな河が見えるのです」
―― それは違う。ゆっこ。その河渡ったら帰ってこれないからなぁ~ ――