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傲慢の代償

 魔竜は最強の魔族である。

魔族ではあるが、魔王に従わず個を持って王とする。

その咆哮はそれだけで人の魂の力を奪い、場合によっては死すらあり得る。

その翼は音より早く飛翔し、その鱗は鉄より硬く、爪は岩を砕き、その吐息は都市をも滅ぼすとされるが。


「第一軍団ッ 勇気を振り絞れッ 」


 不思議だと少女は思う。

確かに魔竜は怖い。だが殺し合いは禁止と由紀子は言った。

幼い少女の魂など魔竜の咆哮の一撃で失われる筈なのに。

「魔王様の恩寵あれッ 」「我ら第一軍団は黒騎士団ッ 」味方達の闘志は熱く、咆哮の影響を感じさせない。

「あの声を聴いていると、なんでもできる気がする」「そう。だな」

少女の言葉にデュラハンこと勇征が続ける。

「だが、まだ未熟だ。あれでは将と認めるわけにはいかん」

勇征はそうつぶやき、少女にパスを飛ばす。受け取ったパスを手に少女は走る。

巨大な竜たちの爪の間を抜けて走る。竜たちは動かない。

「舐めているのか」「いや」師の言葉に少女はつぶやくことで応える。

「大きすぎて、動けないのでは? 」そんなバカな。


 壇上で応援を飛ばす『水のウンディーネ』の声は小さいはずなのに少女たちの耳元に良く通り、勇気と希望、ふつふつと闘志を沸き立たせる。

「デュラハン様ッ 」シュートに見せかけて背面に出鱈目なパスを放つ少女。

そのパスをフォローした『裕子』が空を舞う。


『魔王様激loveッ!!!!!!!!』


 観客たちがやっと騒ぎ出す中、少女たちは笑い合いながらハイタッチ。

「ないすふぉろーです! 」「ふふふ。出鱈目すぎるパスだ。だがいいタイミングだな」

背丈の違いのある少女と『裕子』では裕子の掌は胸のあたりもない位置に。

「というか、仲間割れ醜い」「ですねぇ」デュラハンたちが呆れる中、漆黒の竜とその他五色の竜は御互いの責任の所在について相争っている。

とても誇り高い魔竜山脈の竜たちとは思えない所業に呆れるデュラハンたち。

ひとしきり口論が終わると。


「やめたやめた。こんな球遊びに付き合う道理はない」


 いち早く人化した竜の一人が会場を出ようとする。

抗議する黒竜に「じゃ、お前ひとりでやれよ」と彼は告げる。

「逃げるんですか。竜がたかがデュラハンごときと子供相手に」ぼそっと少女が呟く。


 ぎっと『死の邪眼』を発動した竜の少年。

しかし少女は怒りと共に少年を睨みつけている。

「どういうことだ」戸惑う竜の少年は壇上の『水魔将』に瞳を向ける。

果たして、彼の邪眼は水魔将の命を奪うに至らず、それどころか『水魔将』は艶然と微笑んで見せる。

「もし、負けを認めるのなら魔竜山脈の皆さんも魔王軍の一環として戦って貰う」

水魔将『ウンディーネ』はそう告げる。

「勝てるぞッ 」「おうッ 」勢いづくデュラハンたちに「舐めるな」と怒りをあらわにする竜たち。

結論を述べれば少なからぬ選手たちの怪我を伴なってデュラハンたちは敗北する。


「これで、魔竜山脈に指示を飛ばすのは辞めてほしいところだ」

「人間ごときに魔竜山脈はおとせん」「その通り」「まったくだ」


 侮蔑の視線をデュラハンたちに向け、

「少しでも勝てると思ったのか」と唾を吐く少年。その唾は大地を溶かした。

「その驕りは貴様たちを滅ぼすぞ」『勇征』は小さく呟くが彼らは冗談もしくは負け惜しみと受け取ったらしく肩を竦めて去っていく。

黒い竜が化身した少年が申し訳なさそうに第一軍団や魔王を振り返るが頭は下げない。

竜族は何者にも屈しない。屈せないのだ。

魔竜山脈の魔竜たちが勇者たちが率いる人間の軍に敗れたという報が入るのは後の事である。

デュラハンの死の予言は正確であった。

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