貴女は誰ですか
魔族が苦手とし多くは弱点でもある太陽の光の下、『魔王ディーヌスレイト』が見守る天籟試合が開催されようとしている。
魔王の名前を皆が叫び、少し頬を赤らめて照れる魔王様が威厳を取り戻して応える流れはいつものことであり、少女も気にはしなかったのだが。
「あいうぉんちゅー」「あいにーちゅー」魔王様激loveと描かれたタスキをかけて鉢巻をつけ、先陣を切って叫び歌い楽器を打ち鳴らす魔王軍第一軍団は親衛隊の面々。親衛隊ってそういう仕事もするのかよ。
騒ぐ魔族たち。選手たち。及び親衛隊の指導者であるデュラハンこと勇征及びその付き人兼血袋の少女は選手席からその姿を眺めていた。
「勇征……デュラハン様」「なんだ。外では必要ない限り名前を呼ぶなと言わなかったか」
ごめんなさい。少女が呟くとデュラハンの手が伸びる。
「なでなでは却下」めっちゃ痛い。膨れる子供に少し肩を落とすデュラハン。
「デュラハン様。子供の尻に敷かれていますね」「あはは」「……」
同じデュラハンなので認識に苦労がありそうなのだが彼らは普通にお互いを認識可能だ。
「では、試合を始める。魔族ならば勇気と誇りを持って、血袋はその尊き血を持って戦いに挑みたまえ」
膝まづき、魔族式敬礼をもって応える選手たち。
壇上で魔王に代わって演説する『ウンディーネ』を瞳に納めた少女は驚愕に動きがとまった。
震える小さな身体は乾いた声を漏らす。
「でゅ。ら。ハン様」「こら、失礼なことをするな」
デュラハン以下親衛隊、黒騎士団の選手面々はかるく少女の服を引き、膝まづくように指示を飛ばすが少女の膝はがくがくと震えながらも完全に棒立ちになっている。
「だって。だってだって。あの、あの方は」
少女はつぶやいた。
決して美しいとは言い難い顔立ちだが愛嬌のある大きな瞳。
子供のように手足は短く、魔族と比べて明らかに胴が長い。
手に握られた『霧雨』はその体格を優に超え、身体を纏う『水の羽衣』は清涼な空気を湛えながら水気を放ち続ける。
「第一軍団の戦士たちよ。正々堂々と戦いなさい」「ウンディーネ様に敬礼ッ 」
あの方は。あの人は。
少女は続ける。「由紀子さんじゃないですか」