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『勇者たち』

『敵に頭を奪われるな。脳があれば魔族は『食べる』ことで知識を得ることが出来る。心臓があれば魔族は下級死族にすることで部下に出来る』


 人間族の軍人が教わる言葉であるが、それ故に戦場は凄惨を極める。

動けない味方兵士の頭蓋にハンマーを叩き込み、所持品を奪う輩が多いのだ。

「むごいことをしやがる」その少年は味方の蛮行に歯ぎしりする。


 血が飛び散り、漿液の臭いと死臭を嗅いで魔蠅が近寄ってくる羽音を聞いて脅えの表情を取り戻した兵士たちは足早に去っていく。

「ごめんな」彼はそうつぶやくと形すら留めていない死骸たちに簡単な回復魔法をかけてやる。勿論命を取り戻すには至らない。

そして、瞳を閉じてやる。「なんまんだぶなんまんだぶ」彼は確かにそうつぶやいた。

日本の言葉で弔いの言葉を口にした。


「王ッ 王ッ 」


 死体を魔法で集めて敵味方まとめて弔ってやる彼に何処に逃げていたのか解らぬ有象無象の輩が近づく。彼は勤めて笑顔で応じ、状況を説明させた。

死んだ筈の水の魔女が蘇り逆襲を行ったのみならばここまでの被害は出ない。

確かにこちらのほうが少数だったが戦の流れはこちらにあったはずだ。

「あの動く鎧にしてやられた」銀や魔法の武器でしか傷つかないワイトを無限に作り出す彼の弱点は自分が殺した死骸しか死族として蘇生出来ない能力だけだ。

「あんな恐ろしい将が四天王以外にいたとはな」「あんな『名有り』は聞いたことが無いのだがな」他国の『勇者』である男や女たちが口々に感想を述べる。


 王と言われた少年は彼らから少し視線を逸らした。

「殺した相手を味方にしちゃう能力があるなら殺させなければ良いわよね♪ 」そうつぶやいた『魔導士』が味方ごと広域範囲魔法で敵を焼き殺し、魔導抵抗に成功したワイトの幾何かは『忍者』の『分身の術』に拠って狩られた。

最後のとどめは『戦士』が行ったが彼の怪力をひらりひらりと身軽にかわす鎧は『戦士』に力は劣れど互角に打ち合う健闘を見せ、味方の殿を務めきったのだ。


「なんなんだろうな。魔族って」


 少年はつぶやく。

今までの魔族は誇り高く、反面驕りもあって団結力にかけていたが魔王直結の第一軍団親衛隊は信じられないほどの団結力、強い絆、勇気と誇りを見せつけてきた。


 少年は自らの掌を見る。

あの女の最後の優しいしたり顔が頭から離れない。

そのことを思うと少し胸が痛む。なんなんだろう。この気持ちは。

彼は瞳から流れ落ちる熱い滴を人知れず拭い呟く。

「威力偵察にしては損害が多いわ。久様」「フランメ。貴様味方を焼いたな」


 しなだれかかる長身の美女、『魔導士』は今だ死骸の焼ける臭いが残っていた。

「誤爆よ♪ 誤爆♪ フランメちゃんがそんな酷いことするコに見える? 見えるの? 見えるって言ったら私泣いちゃうわ~ せっかく苦戦しているみたいだから忍法で飛んできたのに」「ツェーレババア黙れ」「あ。エアデ君酷い」

ふざける『忍者』に『戦士』が冷淡に告げる。だが『勇者』である少年の瞳は更に冷たい。

笑顔を張りつかせたまま、指示を飛ばす。

「被害が多い。『僧侶』が弔いを済ませたら戻るぞ」


 その『僧侶』は面倒だからと一言つぶやき、『竜巻交差』を唱えた。

竜巻が真空を生み、真空に巻き込まれた死骸たちは凍りながら沸騰して砕かれていく。

「跡形もなく潰し……弔いました。なんまんだぶなんまんだぶ。ですです」

酷薄な笑みを浮かべてその美青年はつぶやく。

確かに敵味方共に被害は大きかったが、それを弔いと呼ぶのだろうか。

では、『神の奇跡』で我らは帰還しましょう。『僧侶』が呟く。

彼がいなければ多くの作戦は成り立たない。少年は彼と言い争う愚を避けた。

「図らずしも博志君の弔いが出来てスッキリしました。

あの冷静な水魔将がどうして威力偵察ごときに討って出てきたのでしょうねぇ」

「脳みそ無いからでしょう」「あはは。それは良い」

軽薄に『僧侶』たちが笑うが、原型を留めていない周囲の死骸は聞く能力を有していない。

「そうだな。博志の仇は討った。強行偵察にしては上出来だ。四天王自ら打って出て来るのは予想外だったが」「四天王を討ったら次は魔王だね」『戦士』たちが同意する。

「さぁ。帰りましょう」「おふろおふろ」「次の街はいい男いないかな」「そればっかりだな。貴様らは」

彼らは戦場ではしゃぎ、やがて姿を忽然と消す。


少年の握りしめた拳から流れ落ちた一滴の赤いしずく。

彼らが立ち去った後の破壊と死骸とも呼べぬ血たまりは『世界』の魔力となって大地を染めていく。

この世界に魔力は本来存在しない。人と魔族の血を大地が吸い上げ、血をもって魔力の恵みとする。

魔力を巡り、ヒトと魔族の争いは666年続いている。

そして付け加えるべきことがある。ヒトは少年たちを『勇者』と呼ぶ。

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