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転生

 燃える炎の下、少女は自らの首を首無し騎士に差し出す。

「死にたいのか貴様」「生きていたくない。私は友を売った娘」

復讐も出来ず、魔族に仇を討ってもらった形になり、村も滅びた。

村が無ければ冬を越せない。町までは遠く、もう生きる見込みもない。

「私が欲しいのは戦略拠点だったのだが、村人が滅んだ今となってはあまり重要ではないな」

炎の元、首無し騎士はつぶやく。

「その眼。貴様本当に死にたいのか? 『生きたくない』と言ったが」

罪を手に地獄に逃げるのか。騎士は吐き捨てるようにつぶやく。

「無力な私に何をしろと言うのだ。友を売る卑怯者の私にッ 」

炎の粉が少女の髪を照らす。彼女の鼻腔にかつて友人や肉親だった人々の焦げる香り。

魔族たちが死者を弔うとき、天にかかる『輪』にそって魂が星となっていくとする。

魔族式の弔いだがないよりずっとましだ。下位死族として転生するのは切ない。

魔族たちの歌が天に捧げられる。彼らの幾何いくばくかは言葉すら喋れぬ骸骨や腐った死体だ。

死族は滅べば地獄に行く。救いの道はない。


「花が咲いているな」騎士はくってかかる娘を無視し、

その一輪の花を拾い彼女の親友だった乙女の死骸に捧げる。

「死んで地獄の炎に焼かれ、後悔の中存在するのもまた興よの。だが」


 騎士は告げる。

生き地獄の中正義を貫く道があるぞ。

記憶を失い、罪を手に戦い、正義を渇望する道が。

お前に無い力を手に入れ、復讐を成す術が。

「ただし、その為には『死んでも正義を成す』意志を必要とする」

生死の理を超えることを試すものは例外なく地獄に行くが、お前は地獄に行きたいのであろう?

「天国にいる彼女に顔を見せるわけにはいかない」「ふむ」


「では。君はデュラハンになれ。頭を失い、罪を手に戦え。贖え。お前だけの正義を手に入れるために」「なる」生死の理を否定する男の言葉に少女はなんのためらいもなく答えた。


 少女は祈るように騎士に膝まづき、その時を待つ。

音もなく騎士の黒い大剣が彼女の首を斬り落とす。

否、剣が落ちたことすら視認できない速度。


 残された胴は自分の首が落ちた事すら気づかず、

祈りの構えを見せたまた鮮血をほとばしらせる。

その血は大地に沁み込み、魔力となって『世界』の恵みとなっていく。

血の香りが辺りを染め、乙女の血を浴びた黒騎士の黒い鎧を濡らす。

したたる滴は大地を染め上げ、風が彼女の身体を音もなく崩した。


 彼女の頭蓋が唐突に消失した。

動かない筈の首無し死体が蠢く。

無様に周囲を探り、手を振り脚を振り、地面をのたうち。

「ほう。妄執が生死の理を超えたか」騎士は抱えた首で微笑んだ。

いまだ魂の瞳で周りを見ることが叶わぬ生まれたてのデュラハンの娘に彼はその場にあった死骸の首を放り投げる。


 バタバタとのたうち回る首のない身体は手探りでその首を掴んだ。

その様子を騎士は懐かしいものを見る目で見つめている。

少女の肉体はかつての親友の首を手に掴み、振り回す。それが視覚を持つことすらまだ気付かない。

「頭は大事にしろ。『名前』と『記憶』を取り戻すまではな」

騎士の言葉は魂に直接響く。彼女の委縮した魂を震わせ、新たな力を与える声。

落ち着きを取り戻した死体は『首』を抱き、警戒するように座っている。

「お前は何者だ」「存じぬ」騎士の問いかけに生首が応えた。


「お前はデュラハン。失いし首と死してなお正義を求めて流離う剣士だ」「我が名はデュラハン」「そうだ。そして私は黒騎士と呼ばれる」


……。

 ……。


 『裕子』ちゃん。

裕子ちゃん。ゆうちゃんってば。


「トモ。桔梗殿か」「死族の癖に寝るってデュラハンは珍しいよね」


 戸惑う『裕子』は自分の首を探して慌てふためく。

「ゆっくり探せばいいよ~。待たないから」桔梗は必死で『裕子』の首を探す裕子の身体とトモを尻目に『裕子』の生首を背中の『空間』に隠した。

舌を出しておどける桔梗の尻を躯が思いっきりつねる。「いだだだ」


「ゆうちゃん遊んで」「ダメだ。首が見つからない」「大事な首を無くすなんてデュラハン失格ですね」「返す言葉もない。名付け親殿」


 幼女と少女のとぼけたやり取り。桔梗の笑い声が魔族兵士宿舎に響いた。

躯は主人の莫迦な酔狂に付き合わされて閉口していたが。

「やっぱり我ら死族は変わっていますね」とだけつぶやいてのけた。


その口元は優しく笑っていた。

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