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このまま時が止まれば

「ちょっと。トモちゃんッ 卑怯よッ 」「何のことですか? 聞こえませんッ 」


 デュラハンの少女『裕子』の抗議にトモは澄ました声で答えると瞬時に毬を手に彼女の脇をすり抜ける。

「ちょっ だぶるどりぶるじゃないっ?! 走らないでよッ 」「子供だから良いんです。魔王様も許可してくださいました」

「ともちーん! 勝ったら新作のスカートあげるよ~! 」「桔梗様。身体に障ります。ちゃんと傘の下に」

 大きく白い日よけパラソルを持った躯とそのパラソルの下、世界観を無視したサングラスと白いスカート、白いヒールに白のロングソックス(余談だがソックスを釣るベルトまで白だ)で日焼けに完全武装した吸血鬼の真祖・桔梗が観戦している。

 籠を手にけたけたと笑う黒マントのエルフ女性は普段の威圧感も威厳もない。

対面の陣地に同じく籠を手に微笑む水で構成された身体を持つ娘もそうだ。

「ディーヌスレイト様。うちのトモが勝てば由紀子ちゃんモフモフ権アップですからね」「『裕子』だって貴様の部下だろう。この勝負は卑怯だぞ」「存じません。『キューギ』はうちの軍事訓練ですから」

「楽しんでいますね」異世界から来た女子高生、由紀子は相争う魔王と親友を完全にスルーしてトモと『裕子』御互いの健闘に応援をする。


 所謂ワン・オン・ワンと言うモノなのだがキュウギを提案した由紀子の知識にもない。

今日のシアイは試合ではなく、たまたま『裕子』とトモのふざけ合いに気づいた者達が集まっただけだからだ。故に『裕子』もデュラハンの正装である武装をしていない。鎧と接触しては血袋の少女はひとたまりもない。

「裸みたい」長身の理想的な体型を包む鎧下姿の裕子は恥じらう。一応全身指先に至るまで鎧下は包んでいるのだが。「素敵じゃないですか」トモはそう返した。

こちらも動きやすい服。見栄えがするように少し手直ししたものである。

「『裕子』ッ?! 殺さず、傷つけず手加減して勝てッ 」「無理ですよッ?! デュラハン様ッ 」「成せばなるッ なさねばならん! 」「海軍提督ッ?! 無茶ぶりはよしてくださいッ 」


 うるさい。海に放り込むぞとカボチャ頭が叫ぶ。気に入ったらしい。

「妻が待っているのに」ジャック・オ・ランタン族の男はぼやく。

「まぁその、給料は奥方に直接送っているから気にするな」「気にしますッ?! 」

ジャック・オ・ランタンの男とゾンビマスターがぼけたやり取り。

「トモちゃん。そこから三点ですっ」由紀子が叫ぶ。

「あの子、そんなこと出来るのかしら? 」「ねぇ」

ニンフとゾンビマスターの妻、セイレーンこと水奈子が呟くが。

「させないわっ?! 」詰め寄る『裕子』に「きゃ」とつぶやいて飛ばしたボールはあさっての方向に。

「ぼーる補給ッ! 」魔王の命令にさっと動く鎧アンデッドナイトが新しい『ぼうる』を取り出す。


 ぽよん。ぽよん。

『魔力で跳ねる新作のぼうる』をそこらで観戦していたエルフの変異種『子供たち』の一人が受け取る。

その『ぼうる』はニヤリと笑う。ゾンビマスターの新しい首として魔王が自ら魔導養殖して回復させたものだ。

「うひゃあ? なのの?! こんなのうけとれないののっ?! 」

慌てた彼は思わずそれを放り投げた。『子供たち』の身体能力は魔族でも屈指である。

その『ぼうる』はひゅるひゅると空を舞い。

「「「「『魔王様激love!!』」」」」

炎に包まれた男、風で身を纏う戦士、その風にスカートを押さえる土魔将の妻と由紀子の養父である夫。その他観客、選手たちが一斉に声をあげる。ゾンビマスターの新しい首を籠ごと抱えてウンディーネはご満悦。

「3Pですわ。魔王様」「反則だぞッ トモが投げたわけではないッ 」「そんなルールはありませんわ」


「私がキスする~ じゅる」


 吸血鬼の少女が躍り出てトモを恐怖させ、それを人造人間の娘が必死で止める。

「自重してください。桔梗様。血も吸いかねません」「え~?! 親友の勝利を讃えて何が悪いの~! 」

『頼む。躯さん。桔梗さんを止めてください。そのままですッ グッジョブです! 』 

無力な少女は強く念じた。

「勝者ッ トモちゃん! 」「卑怯だ。卑劣だ」


 悔しがる『裕子』に次のセットでは頑張りましょうと告げる女子高生。

1967年の日本の田舎から来た彼女は流石に勝者に接吻を行う習慣や文化は無く、腕を上げることでそれの代わりとする。

遠巻きから見ていた魔族や血袋たちの手が拍手を始めた。

「次は勝つからな」『裕子』が負け惜しみを言うのに微笑み返すトモ。

「武器と魔法は禁止だ」「ヒドイですよ。二人のふざけ合いに乱入してきて。デュラハン様」「俺は貴様とトモの上司で保護者だ」

膨れる彼女はトモからボールを奪うと微笑みながら魔王の持つ籠に向けて駆け、片手でダンクシュートを決めた。

「だぶるどりぶるっ?! 」「どうして私だけッ?! 」「子供相手になにをしているのですかっ 裕子さんッ?! 」

「ああ。見てられない。俺も参加する」「おれもおれも」

血袋の青年が駆ける。続いて魔族の老人も走り出す。

彼らは夕焼けまでボールを追って笑いあった。

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