『鋼鉄の処女』
「トモが回復したらしい」「見舞いに行かねば」
ぞろぞろぞろぞろ、否ガチャガチャガチャガチャと首無し騎士や亡霊騎士が花だの羊毛で作った毬だのをもって桔梗の部屋に向かう。彼ら上位死族は吸血鬼を恐れない。やっぱり死族は変わっている。
彼らの主人はと言うと「合わせる顔が無い」と一言だけ呟いて執務に戻った。
実際『へのへのもへじ』と書かれた毬を頭にのせていた。本来の頭はどうした。
今回の不始末を謝罪するという水軍の主は相変わらずジャック・オ・ランタン族の男を頭に装備している。再生はまだらしい。怖すぎるので無しと相成った。
しかし、首を抱えていたり、燐光を放つ黒々とした死体を引き連れていたり、ジャック・オ・ランタンを提灯代わりにもって歩く死族の集まりはどうみても百鬼夜行だ。これに鬼族や巨人族が加わる。第一軍団は魔王親衛隊は屈指の精鋭ぞろいだ。逆を言えばどう見ても怖い。怖すぎる。
「あの勇気の有る少女に是非会いたい」「俺も俺も」第一軍団じゃない連中もチラホラ。
こちらも亡霊だったり毒ガス生命体だったり火炎に包まれている男や風で構成された刀をもったふんどし男だったり。
「何をやっている火の。さっさと出撃しろ」「貴様こそなんの用だ」魔将二人。仕事してください。
「む。水の。なぜここに」「土の。貴方はこちらには用が無いと思いますが」お前らもか。四天王揃って何をやっている。まさか魔王までいないだろうな。
「……」「……」「ふむ。このようなメイドは面識がないな。スパイなら消さねば」「魔王様。ノームは本気ですよ」
目を逸らしてスルーしてくれる火と風と違い、土は辛辣だった。
これが妖怪耐性のある鳥取県民。ノームの養女である由紀子ならちょっと驚く程度で済むがトモにとってはたまらない。
『面会謝絶』桔梗の部屋の前に吊るされた看板は躯が気を利かせて設置したものである。面会者たちの落胆ぷりはいかばかりか。
中では別の意味で面会謝絶。ファッションショーである。
「桔梗さん」もはや半泣きのトモに次々と衣装を出してくる桔梗。
どかどかと無限に出てくる子供服。桔梗は空間を操る能力があるらしい。
そんな桔梗にトモが解放され、自室に戻れるようになったのは翌日を待たねばならなかった。
「やだやだ~。ともちんと別れたくない~」我儘を言う主人を笑顔で抑えてトモに「もし嫌でなければまた遊びに来てください」と告げる躯。主人には苦労しているようであった。
こつこつと少女の小さな足は魔王城の床を歩く。
時々遠巻きに彼女を嘲る瞳で見る魔族たちは彼女の顔を確認すると態度を変えて直立不動で魔族式の敬礼をしてみせた。
トモは流石に恥ずかしいので辞めてほしいと心から告げた。
魔王城から出るとウンディーネが手を振っている。
普段のウンディーネの振る舞いからは信じられないがこちらが素らしい。
空を舞う陸魚が牽く戦車に乗って二人は魔王城下を駆ける。
トモの視線の先は血袋から血を抜き取る魔族の伝統的な『鋼鉄の処女』を捕えた。
「先日は大活躍だったね。キミ」ウンディーネ直々の言葉に思わず固まる。
「は、はい」「デュラハンが心配しているから早く帰ろう」
「あの。あれ……」「ん? 」
ああ。ウンディーネはつぶやく。「キミには『もう』関係が無い」
戦車は二人を乗せ、旧ノーム砦から伸びる絶対防衛圏に向けて走り出した。
新鮮な血の香りがむせ返る『鋼鉄の処女』と歓声を上げる魔族の男女を残して。