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天駆ける馬車 空舞うゾンビ

「貴様らッ 自分の首を大事にしろッ 首は一つしかないのだぞッ」


 叫ぶデュラハンだが今まで騎士道騎士道の真面目一本生活数百年。

禁欲生活が長かったデュラハン族は『キューギ』の齎す新しい興奮に皆タガが外れている。

首なんて無くしても血袋の首つけてればいいじゃんとばかりに敵陣に襲い掛かる。

「貴様らッ 対抗しろッ この戦いは我ら水軍の皆の首がかかっているのだッ 貴様らの首を俺に預けてくれッ! 」「ゾンビマスターさまッ 」暑く、否熱く盛り上がるゾンビマスターだが首は首でも首の意味が違う。

そして全員で自らの首をもいでシュートするのはどうかと思うぞ。ゾンビマスター。

しかも各位置から放たれたゾンビの生首は計ったように見事に各方向からニンフの持つ籠を狙う。

「魔王様激loveッ!!!!!!!!! 」

「無効だッ 無効だッ ボールが多すぎるッ?! 」

沸き立つ観衆と審判に抗議するデュラハン。その脇を黒い影がすり抜けた。

普段機敏さと縁遠いゾンビマスターである。首を無くすことで体重を軽くすることに成功したのだッ!

腐った足の筋肉があっちこっちに飛び散るが気にしない。気にしろ。

「うおおおおおおおおっ 」実に一五尺もの距離を豪快に飛び越え、空を舞うゾンビ。まことに心臓に悪い。実際胸からこぼれた心臓と軽量化の為捨てた内臓が地面でピチピチに跳ねている。

「しまった?! フェイクかッ?! 」慌てて剣を親友に打ち下ろさんと戦車を詰めるデュラハン。しかしゾンビマスターの動きはそれを凌ぐ。

内臓も心臓も吹っ飛ばして軽量化したゾンビマスターの身体は空を舞った。


 『子供たち』がどよめく。

「飛んでる……」老人たちがゾンビでもないのに顎を外す。「まじか」「うっそ……」乙女たちが見惚れる。ゾンビ相手なのに。

ゾンビマスターの両脚は空を奔るように搔き、朝日を受けて舞う。

その先にはニンフの持つ籠。しかしゾンビマスターは首、すなわちボールをもっていない。


 ゾンビの首の猛攻をなんとか結界魔法で弾き飛ばし、白い神衣がゾンビ汁まみれになって涙目のニンフは、最後に迫ってきた生首を弾き飛ばし安堵したところだったのに。

「ゾンビマスター様ッ 」最後の生首を豪快に蹴っ飛ばす部下。その生首は空を舞うゾンビマスターの掌に吸い込まれていく。

「止めろぉぉおおおっっ?!! 」慌ててゾンビマスターの持つ首をとめるべく、空中唐竹割を決めんと空を駆けるデュラハンの馬車たちは激しく接触。

ゾンビマスターは空中で自らの首をしっかり抱きしめ、守り、くるりと背を向けて剣の一撃を己が背で受け止め、砕ける背骨をもって受け止める。

ゾンビマスターの脚が宙を舞う戦車の背を蹴る。


「ひっ?! 」


 思わずしゃがみこんだニンフの籠めがけ、

首のもげたゾンビマスターが自らの首を豪快に叩き込んだ。

エアウォークからのアリウープ。そして背面ダンクシュートである。

勢い余ったゾンビマスターの頭蓋骨は砕け散り、脳漿と血液が吹き飛んでニンフの白い神衣を汚す。

また頭を再生しないといけない。こまったことだ。


 首の無くなったゾンビは適当にそこいらのかぼちゃを頭にのせて観客の声援にポーズして応える。

その雄姿を称え魔王様直々の口づけが再び彼、ゾンビマスターの頬に。

六六六年独身故一度口づけを受ければ確実に婚期を逃すと羨ましがられると共に畏れられる魔王様の口づけである。


 でもキスされるのはカボチャである。

正確にはカボチャではなく、たまたま観戦に来た観客でジャックオランタン族の男である。ラッキーだがアンラッキーだ。彼は確実に婚期を逃した。

一斉に観客たちは水軍提督の栄光を称える。


「ゾンビマスター! 」「ゾンビマスター! 」「ゾンビマスター! 」「ゾンビマスター! 」「ゾンビマスター! 」「ゾンビマスター! 」「ゾンビマスター! 」「ゾンビマスター! 」「ゾンビマスター! 」「ゾンビマスター! 」「ゾンビマスター! 」「ゾンビマスター! 」「ゾンビマスター! 」「ゾンビマスター! 」「ゾンビマスター! 」「ゾンビマスター! 」


 悔しがるデュラハン族の面々。喋れるものすら少数で醜いだの臭いだの汚いと蔑まれていた立場から拍手と称賛と栄光を受け、喜びに震え歯を鳴らすゾンビやスケルトンたち。感動のあまり泣き出す魔族たち。実に騒がしい。

籠を手にペタンと座り込むニンフ。その手はゾンビマスターの砕けた頭を籠ごと抱きしめて離さない。

敵陣奥にて籠を守るセイレーン・水奈子の嫉妬交じりの瞳に気づき、思わず籠を放り投げてしまう。

今度は水奈子がニンフに『夫の頭を大事にしてください』と切れたが既に砕けて水みたいになっている。


「ホント。殿方ってどうしようもないですね」


 デュラハンの女性は喧騒に対してつぶやくと自らの首を頭の上に。

「デュラハン様。いってまいります」「気を付けろ」「ええ。可愛い従者とそこでイチャイチャしてくださっていて結構ですので」「おい」

クスリと微笑み立ち去る女性のデュラハン。その生首は前後逆だった。

やっぱり死族はちょっと変わっている。

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