スクープ! 魔王軍第一軍団魔王親衛隊・黒騎士団団長デュラハンに女の影?!
「お前にこんな美しい許嫁がいたとはな」片目をポロリと落として大笑いするゾンビマスター。
ゾンビマスター専用の座椅子は皮張りで彼の腐った体液が沁みこまない処理が行われている。
その隣で鼻をつまんで「アー臭い臭い」と嫌味を言うのは彼の妻であるセイレーン・水奈子だ。
多分に嫉妬も混じっている。水奈子は女性としてはまだ幼い。人間にして一四歳くらいの容姿だ。
「誤解だ。何度も言うが此花とはそのような関係ではない」弁解する彼、デュラハンこと勇征にゾンビマスターこと芳一が追撃をかける。
「此花? 誰の事だ? お前の口からハッキリと教えて欲しいところだ。まさか我らが『名付親』が女の子だったとはな」
簡単に述べる。多くの魔族は好敵手や『一番大事な人』から名前を与えられる。もしくは敵から憎しみをもって呼ばれる通称を自らの名と決める。
「私もそのときは知らなかった」
首のない肩を落として落ち込む勇征に芳一が笑う。
「まぁ知っていたら血袋にしていただろうからな。仕方ない」
身を固くする少女にゾンビマスターの眼球の無い眼窩が優しく笑みを向ける。
「今更だからな。隠しておいてやる」ほっと溜息をもらす少女だがその代りに死んでいく血袋がいると思うと良い気がしない。
「つまりだな」「こほん」
ほのかに赤い頬の水奈子がわざとらしく咳をする。
ちなみに本来の彼女は鰓で呼吸するので咳をする必要はない。
ナイフのように鋭い武器になる腕や耳、ふくろはぎ周りのヒレは鰓も兼ねている。
「ゾンビマスター様。失礼ですが私たちも二〇〇年ほど歳が離れています「む」
会話内容が解らず戸惑う少女にデュラハンは告げる。
そのままでは周りの皆が太らせて血袋にしてしまうであろうことから従者として保護したこと。
『名付け親』を粗末に扱ってはいけない魔族の掟を。
「簡単に言うわ。デュラハンは従者を持つことは無かったの」
「うむ。『従者などいらん』の一点張りでな」
「じゃ、私は」「我が後継者だ」
こともなげに言ってのける生首に二人の魔族はかたや自らの体液を。かたやコップに入れた茶を噴きだす。
「ビシバシ育てるからそのつもりで」「はいッ! 」
祭壇の上に捧げられた主人の首に両手を詰めて明るく叫ぶ少女。
満足そうな生首。そのやり取りを眺めながらゾンビマスター夫妻は本題に入った。
「で。その桔梗と言う娘と貴様の関係を」「しっかり聞かせて? あ。録音魔法を使っているから言い逃れは聞かないわよ」
『魔王様激Loveにゅーす 特別記者』と書かれたタスキを身につけて迫る二人。
エルフの亜種である『子供たち』が趣味で運営するこのはた迷惑なチラシは魔王軍の一兵卒たちの情報源にもなっている。
多くは『きょうふ! 魔竜山脈に勇者の姿を見た! 』『すくーぷっ 魔王様が語る今年の新作衣装・ミズギの魅力! 』『異世界の魔王より一二八魔将制度を導入! 揺れる魔王軍の軍制の今後を占う! 』などの根拠不明かつどうしようもない情報ばかり。
だが誇張や面白半分の脚色が多分なだけでかなり信頼できる情報である。
『子供たち』は何処にでも潜入し、彼らの興味と趣味を満たすためなら何でもする面倒な連中だ。故に彼らの情報誌は『面白い』ことが最優先ではあるものの情報源は確かだ。
あまりに『面白く』しすぎて嘘八百にしか見えないのが難点であるが。
勇征ことデュラハンの視線は助けを求めるように自らの『名付け親』に向いたが。
「お前も興味があるだろう。ほれ、飴をやろう」「はい。特別記者のタスキ」「ありがとうございます!」
興味津々の瞳で返す少女とゾンビマスター夫婦の見事な連携の前にすべてあきらめざるを得なかった。