謎の少女
「あら。お嬢ちゃん。デュラハンは何処かしら? 」
その女性を見てデュラハンの従者兼専属血袋である少女は戸惑った。
『おじょうちゃん』性別は誰にもばれていない筈なのにと。
「あなた、デュラハンの血袋? その癖にまだ生きているのね。何故かしらって。ああ。応えなくていいわよ。全部解るから。ふむふむ」
変わった人と言うか、変なひと。少女『トモ』にとってのその女性の第一印象はそんなものだったが。
「誰が変な人よ。デュラハンはこんな失礼な子供に名前を付けてもらったわけ? 」
軽く睨まれて思わず口を手で押さえてしまう。
「ふむふむ。血袋の子供ごときに魔王軍に武勇を知られた黒騎士デュラハンともあろうお人が名前を付けてもらった上に、
その名前二つをゾンビマスターと交換したって?
で、今は勇者にあやかって『勇征』? 悪運が付くから? 悪趣味ね」
それに、私が活きの良い一〇歳前後の娘を見ぬけないはずがないでしょうと続ける女性。正直女性にしか興味のない人に見えて気持ちが悪い。
女性は大柄な種族であるデュラハンの知人にしては小柄かつ、快活で可愛らしい女性だ。
生真面目な武人であるデュラハンの知人には合わない。
白を基調とした服装は可愛らしく大人しいが全身指先に至るまで衣服や手袋で覆われているのが少し気になる。
「このひと心でも読めるのだろうか」
戸惑う少女に彼女はニコリと笑う。「ううん。なんとなくよ」
なんとなくというレベルではない気がする。
『勇征』ことデュラハンは清潔好きで自室の掃除を欠かさない。
少女もやりたいと言ったのだが逆に部屋を散らかすことになってしまった。
従者といっても名ばかりの少女としては居心地がかなり悪い。
ちなみに執務も完璧でそつなくこなせる。複式簿記も出来る。
本当に出来る男なのだ。無いのは首くらいのものである。
「相変わらず男の癖に綺麗な部屋だこと」彼女は肩をすくめる。
気のせいだろうか。心なしか彼女の周囲の気温が低く感じる。むしろ寒い。
「編み物でも趣味でやってないかしら。恥ずかしい趣味を探してやる」
部屋を物色しだす彼女を少女は必死で妨害しようとするが彼女はまったく頓着せず、少女の額を人差し指で軽く押さえて封じる。トモは幼い。手足の長さが違いすぎる。
「いい加減にしろ。此花」
主人の苦言を聞いた少女の表情が明るくなる。
「人の部屋に勝手に入ってきて何をやっている。汚すな」
しかし声はするのだが姿が見えない。
「勇征様? どこですか? 」「ここだ。ここだ。トモ」
額を動かそうとすると此花と呼ばれた女性の指が先んじて動いて少女の動きを完全に封じてしまう。
「あなた何しているの? デュラハン」此花と呼ばれた女性。
呆れて見せる姿は年頃の乙女に見える。
「うむ。料理を作ろうと思ってちょっと首を置き忘れた。悪いがトモ。後で陣内に届けてく」
血袋の少女は台所から転がってきた主人の生首を見て倒れた。
やっぱり死族の感性は変わっているらしい。