何処にでもありそうな魔王軍と何処にもない軍事訓練について
何処にでもありそうなファンタジーな世界のどこにでもいそうなファンタジーな魔王軍。
魔王軍第一軍団所属。魔王親衛隊と水軍は対峙していた。軍事訓練である。
観覧席からは威厳たっぷりに彼らを見下ろす彼らの主。
魔王『ディーヌスレイト』。
黒いマントに大きな角のついた冠を被り、威風堂々と玉座に立つ。
訓練と言っても実戦さながらの殺気と迫力。魔王様の御前ゆえ誰も気を抜かない。
殺気だった彼らは号令の瞬間を今かと待ちわびていた。
そして今。遂に魔王の号令と共に彼らは『戦い』を開始した!
「くたばれええええええっ!!」
罵声と共に首無し騎士の一人が自らの首を抱えて走る。
防衛に回るゾンビに豪快にタックル。肉塊が弾け飛び、体液が飛び散った。
しゅるしゅる。
内臓をロープ代わりにしてぶん回し、胃袋から胃液を出して首無し騎士にぶっかけるは水軍の主。水軍提督『ゾンビマスター』。
足を滑らせて転倒した首無し騎士が自らの頭を求めて左右往生。周囲の観客である血袋(※ 魔族は人間の捕虜をそう呼称する)や下級魔族たちが酒を抱えて大笑い。
ゾンビマスター軍後方陣地にて最終防衛線である『籠』を抱える彼の妻、セイレーン族の『水奈子』も流石に苦笑い。
『(そういうことは夜にやってほしい)』心で思う水奈子。もげろゾンビマスター。既に片腕もげている。
というか、何故に軍事訓練に籠持ってるの?! 水奈子さん?! というかなんであなたの名前は日本語?! 詳細は後日に譲る。
「卑怯だぞゾンビマスターッ!」「何を言う先に手を出したのは貴様だデュラハンッ!」
ゾンビマスターと魔王親衛隊長。首無し騎士『黒騎士』デュラハン。
百年来の親友同士が剣を取り豪快に斬り合う。腕が飛び足が飛び、飛んだ手足を握りしめてお互いの頭をぽかぽか。
というか既に頭は遥か彼方に吹っ飛んでおり、頭同士が罵り合いをしている始末。
頭を失った胴同士がお互いの腕を取り合って獲物として殴り合う。実にシュールな光景である。
「ゾンビマスター様。頭を拝借ッ」「デュラハン様。頭を狩りますッ」何か違う。
ゾンビマスターの頭が地面に叩きつけられ、脳漿と体液を飛び散らせ汚れた髪の毛が地面に飛び散る。
また育毛しなければならない。こまったことである。
「先手ゾンビマスター軍! デュラハン軍ボール権無しッ!」ぼ、ぼーる?! ぼーるって何ですか紋章官さん?!
「おのれ動きの鈍いゾンビに後れを取るとは」
同族のふがいなさは自らのふがいなさとしておのれに悪態をつくデュラハンを尻目に『三倍速の赤いゾンビを採用した』と勝ち誇るゾンビマスター。
『1967年』にそんな連続テレビアニメーション映画はない。というかここはファンタジーの世界だ。白い悪魔なロボはいない。
その勝ち誇る頭は同族に突き飛ばされるどころか蹴られて前に進んでおり、胴はあっちこっちに迷走している。
迷走する胴が転がるデュラハンの頭を蹴飛ばす。爆笑する魔族の皆さん。
「大丈夫か同士デュラハン」「おおすまんなゾンビマスター」
ゾンビマスターの腐った身体にデュラハンの生真面目な表情の顔が乗る。新しい顔である。
繰り返すがこの時代にそんな絵本はまだない。
一時敵対しているとはいえ親友同士、麗しい友情に涙する魔族たち。笑ったり泣いたりご苦労な事である。
いい加減上司の頭を転がすのが面倒になった赤いゾンビはゾンビマスターに促されるまま、豪快に上司の頭を蹴飛ばした。
ゾンビマスターは口を大きく開け、空気抵抗を変化させて軌道を変える。
強烈な落下スピンを受けたゾンビマスターの頭は魔王軍第一軍団長の妹にして副官ニンフの掲げるデュラハン軍の籠に吸い込まれていく。
「魔王様Love!!!!!!!」という観客、選手一同の声と共に。
その声を聴いて貴賓席に座る美しいエルフの娘の頬には僅かに朱が差したが即座に襟を正して威厳を取り戻し手を軽く振ってその声にこたえる。
前述したが彼女こそ偉大なる魔族の王。魔導人形『魔王ディーヌスレイト』である。
歴代最高の人気を誇る魔王の口づけを頬に受け、ゾンビマスターの頬が溶けたのは言うまでもない。
「どう? 由紀子ちゃん。『ばすけっとぼうる』。説明通り見事に再現したわよ」
勝ち誇る美女、魔王軍第一軍団長『水のウンディーネ』。しかし返答が無い。
『主審』
その名札を付けた『女学生』は最初のワンシーンで泡を吹いて倒れていた。
流石に鳥取県民には妖怪耐性があるとはいえ、グロに対する耐性は無いらしい。