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グラソドール世界

聖剣ですけど、仕事は無いです。

職業は聖なる剣……副業は地母神殿でご隠居なんだよね。


「空が青いな」

私は神殿の庭で空を見上げた。

青い空の向こうに鳥が飛んでいるのが見えた。


平和が一番だよ。


「なに呑気なこといってるです、さっさかはいてください」

カスリダ神官に庭箒を押し付けられた。


私は神殿に納められた、聖なる剣の化身だ。


大昔、世界に邪神があらわれたときに勇者と一緒に冒険の旅に出ていた時が懐かしくない!


ええ、まったく!


暗いし、美味しいものも食べられないし、冗談は聞かないし。


今の平和な時代ばんざーいだよ。


「そう言えば、ウエニアさん、今度行列のできる美味しい食堂が有るんで行きましょう」

カスリダ神官が自分も庭を掃きながら私を見た。

「わーい」

嬉しいな美味しいもの大好き。

私はウキウキと庭を掃き出した


安いもんですねというカスリダ神官の声聞いた気がするけど気のせいだよね。


カスリダ神官は剣使いが荒いけど優しい、地母神オーラダー様にお仕えするだけあるよ、うん。


地母神オーラダー様も壊れるまで会いたくないなぁ。

私は普通の剣だったんだよ……それを適当に選びやがって。

平凡なヘッポコ剣生をかえしやがれ。

鍛冶屋さんオーラダー様の祠に供えないでよね。


いくら息子さんと娘さんが邪神族に害されたからって一番近くのオーラダー神殿に駆け込まないでよ。


しばらくはオーラダー様の所にいたんだよね……

なんで勇者のところに行くことになったんだっけ?


記憶が思い出せない……



郊外の素敵な一軒家なレストランに約束通りやってきた。

オープンキッチンになっていて石窯ではクルクルとお肉とか野菜が回っているのが見えた。


「へー、串回し焼きのお店なんだ」

私はウキウキと素朴な木のテーブルについておしぼりでてを拭きながらあたりを見回した。

「ええ、美味しいって評判をきいたので、あー、麦酒大ジョッキであなたは? 」

カスリダ神官がメニューを見ながらニッコリした。

性別不祥な華奢風のくせに酒豪め。

「リンゴジュース」

私は呑めません、聖剣が酒飲んでいいことがあるとでも?

「リンゴの囁きがいいんじゃないか?」

何故かついてきたギダシア神官が私の耳にささやいた。

そりゃカクテルやん。

ギダシア神官、イケメンなんだけど何故か私に構うんだよね。

「リンゴジュース」

私は主張した。

リンゴは体に良いんですよ。

「家事手伝いのくせに生意気な」

ギダシア神官が微笑んだ。

普通、酒のむと言われませんか?


と言うか隣に座ってるのはともかくギダシア神官近すぎです。


「私を酔わしてどうするのさ」

私は小首をかしげた。

酒飲ませりゃ酔うの確実ですよ。

可愛いですねとギダシア神官が私の頬を撫でた。


うっとりとするような極上の微笑みを私に向けると

「もちろんお姫様抱っこで寝室まではこんであげるよ」

ギダシア神官とささやいた。

このエロエロ神官め。


みんなが見てるじゃないか!

隠居中だから目立ちたくないのに。


「ウエニアさんをもてあそばないように」

カスリダ神官がやってきた麦酒をニコニコとあおった。

もっといってやってくださいよ。

「ウエニアさんのことは遊びじゃないしオーラダー様の祭壇で結婚するよ」

ギダシア神官が私の頬に口づけた。


わーんセクハラだよ〜。


地母神ってくらいだからオーラダー様は生めよ育てよ教義だ、よって、神官も既婚者が多い。


正確には生と死の神だから輪廻転生みたいな感じな教義で生まれる者あらば死すものあり流れを途切れさせてはならぬだったかな?


だから、他の神様の聖剣の化身なんて無性別が多いのにお陰様で私はしっかり女ですよ……あれ? もともと私、勇者のところに行くんじゃなかったような……記憶が……


もう二度と会いたくないオーラダー様……さくさくいって邪神倒してこいって勇者に放り投げられた時の心細さ。


あれなんか違うような……まあ、いいや。


ともかく、問題はあのアホ勇者どよ!

邪神をなんとかしたあと、私をオーラダー神殿に納めずそのままどこかに引きこもろうと……したんだよね? 記憶が曖昧なんだけどさ。


あっちが邪神だった……のかな?


国を救ったんだから綺麗な王女様と結婚すればいいのに! いたよね惚れてた王女様。


勇者からオーラダー様の神殿に逃げ込む聖剣なんぞ私くらいのもんですよ。


良かった勇者のものにならないで……でいいんだよね?


ま、逃げ込んだあと、何百年も力を使い果たして寝てたらしいです。


力を使い果たしたせいか記憶がおぼろで全部ギダシア神官から聞いたんだよね……カスリダ神官は記録ではそこまで書いてませんがボロボロでしたといってた。


帝都から聖武具師よんで打ち直したからえらいお金がかかったとカスリダ神官にニコニコ言われた時、この腹黒っておもったよ。


だから、働きざるもの食うべからずと良く言われます。


起きたのはここ最近なんだよね。

世界が変わってて平和でとってもうれしいよ。


「ブタの肩ロースのバジルグリルです」

店員さんが串に刺さった大きい肉の塊を持ってきた。

テーブルで切って提供らしい。

そういえば、石窯でクルクル肉とか魚が回ってたな。

「三人前下さい」

カスリダ神官がオーダーした。


その間も麦酒を離さずどんどんへっていくのが見えた。


「鰆のクリームパイ包み焼きでーす」

次の店員さんがやってきた、拳大のパイが串に刺さってる。

「食べたいの?」

ギダシア神官が私の手を持ってなめた。

いちいちエロエロしい男だよ。

「美味しそうです」

無視して匂いをかぐ、ああ、いいにおい。

「ウエニアさんの方が美味しそうだ。」

ギダシア神官が妖しく笑って頬に口づけた。

またかい、このエロエロ神官!


キス代金取るぞ。


「それも三人前下さい」

カスリダ神官がオーダーした。

ついでに麦酒を追加注文してる。


「トマトのチーズ焼きでっせ」

少年の店員がトマト串を主そうに持ってきた。

また、いいにおいが…。

これも頼んでもらおうとカスリダ神官を見ると何故か少年がたじろいだ。


「げ、聖剣ウエニア、お前なんでここにいるん」

トマトのチーズ焼きを持ってきた少年があとずさった。

「…誰?」

私は小首をかしげた。

彼と面識はないとおもうけど。

「思い出せそろそろと近づいてきた。


思い出すもなにも最近目ざめたところだから、現代人知らないんだよね、それに記憶もあいまいだしね。


「……ああ、こんなに見つかったらどうしようって思ってたのに、最大の敵は大ボケ! 」

少年がすこしよろけてこの世の終わりみたいな顔をした。


一体何がなんだかわかんないよ。

ギダシア神官はばぜか苦笑してるし。


「ルートシル、なによろめいてるんだい! さっさと仕事をおし! 」

この店のおかみさんが麦酒をテーブルにおいてお盆で軽く少年のこう頭部を叩いた。


ルートシル?聞いたことあるような。


「…邪神ルートシル…?」

ま、まさかね。

子供が幸せになるようにあえて悪い名前つけるってあるけど…そっちだよね。

「そうだよ、どうとでもしやがれ! 」

ルートシルがぷっとふくれた。

「ルー!」

女将さんがルートシルをまたお盆でどついた。

「いてっ」

ルートシルが頭をなでてバカになったらどうするんだとうめいた。

「すみませんね、家のバカ息子が、あんたまだ邪神ごっこしてるのかいバカ! 」

女将さんがグイグイルートシルの頭を押さえつけて頭を自分も下げた。

「母さん、オレは本当に邪神の生まれ変わりで……」

「さあ、仕事だよ」

ルートシルがまだいっているのをさらにどついて女将さんは次のテーブルのほうに追いやった。

ルートシルはブツブツいいながら他のテーブルに行った。


うーん、幸せそうだな……いいや別に、本物かどうかしらないけど。


「すいませんね、あの子、思い込みが激しくて」

女将さんが頭をさらに下げた

「いいえ、いいんですよ」

カスリダ神官がニコニコと麦酒を手にとった。


本当に酒さえあればいいんかい?


「はい、ウエニアさんあーん」

「た、食べられますよ」

ギダシア神官に豚肉をあーんされそうになってあわてて自分のフォークを手に持った。


残念とギダシア神官がつぶやいたのが聞こえた。

このエロエロ神官め。


本当にいいお店だな……また、きたいけど……お金ないしな……なおすのにお金かかったとかで小遣い程度しかもらってないんです。


まあ、大して役に立ってないしね。


聖剣業務もリタイアしたしあとはご隠居様をやって……のんびり余生を過ごさせてくださいよ。



数日後、やっぱり今日もこき使われていた。

なおすのにお金かかったと言われるとなぁ。


今日は聖堂内でお掃除です。


「ウエニアさん、勇者オーダウエってどんな人だったんですか? 」

カスリダ神官が祭壇をふきながら聞いた。

この人もこう言う好奇心あるんだね。


あー、奴ね……変な勇者だったよ。


普通、聖剣なんて武器なんだから、使ってなんぼなのに

『ウエニアが血まみれになるなんて嫌だから。』

と使わなかったのはなんとなく覚えてる。


私は祭礼用の剣かい! と密かに思ってたよ。


おかげで、勇者を想ってた綺麗な王女様に錆び止めならぬ錆び加工の溶液塗られたときゃ女の狂気を感じたね。


あー、こういうのは覚えてたのか。

まあ、顔とか思い出せないけどね。


聖剣に錆び加工の溶液は効かないから錆びなかったけどね。


「まあ、いい男風の変態だよ」

夢を壊して悪いけど、本当です、というか常々過去そうに思ってたみたいですね、勇者の顔とか思い出せないけどね。


そうなんですかと残念そうにカスリダ神官が今度は棚をふきだした。


ずいぶん熱心だけどなんかあるのかな?


勇者といえば最後の邪神ルートシル倒すときも私使わなかったな。


どうやって倒したんだ? 思い出せない……でも、ルートシル(仮)は最大の敵言ってたな……切った事は記憶にございません……本当にないんだよ。


一番力使ったんが…勇者から逃げるときなんて情けないな。


「勇者はまだ、生きてるって言う噂が……」

ギダシア神官が書類を整理しながら恐ろしい事を言った。


……おーい、どんな化けもんになり下がりやがった?

私は知らないからね。


「オーダウエ様の御尊顔を覚えていますか?」

カスリダ神官がちらっと私を見た。


うーん、良い男風の変態だって言うフレーズは覚えてるんだけどな……


私は床を拭きながら思った。


「……私……惚けてるみたいだから……掃除できないよ」

覚えてない事を理由にサボろう。

「ごくつぶしは許しません、今度、大神殿から高神官様がくるので……」

カスリダ神官が黒い微笑みを浮かべた。


こんなに黒いのにオーラダー神殿キノウエシ支社のなかで慈愛の神官様ってことになってるらしい。


「わかりました、隠れて出てきませんよ」

うん、かかわらないのが一番だよ。


そのほうがいいですねとカスリダ神官が棚を整理しだした。


「じゃ、オレと良い事してようか? 」

いつの間にか後ろにきたギダシア神官が耳元で囁いてあなたは出ないとダメですとカスリダ神官に怒られてる。


本当に謎の男だよ、こい…たまに、気配がないんだよね。


「別にしないよ」

さわらぬ神官にたたりなし。

さてと…今晩はどんなご飯かな?


隠居なんて、ご飯くらいしか楽しみがないんですよ。



数日後、オーラダー大神殿の高神官がきたらしい。


「かっこいいのよ、ウエニアちゃん」

お茶を出してきたアウル神官が言った。


旦那さんとお子さんがいても、ミーハー心は押さえられないらしい。


「ふーん、私は庭でお茶するけど……来ないよね」

神殿の庭は大地の神の神殿だけあって植物が沢山あって昼寝に最適なんだ。

ハーブがたくさん生えてて昼寝に最適なんだよね。

「ええ、居間の方でお見かけしたから大丈夫じゃないかしら? 」

アウル神官はお茶の魔法瓶とハーブクッキーを籠に入れて持たせてくれた。


たくさんの木々と植物が生えた神殿の庭は今日も気持ち良い天気でうっそうとハーブがしげったところにねっころがった。


青々と繁るハーブや木々に埋もれて空を見上げた。


ローズマリーのクッキー美味しかったな……今度、作り方教えて貰おうかな……


こんなに平和だと……大昔が嘘みたいだな……


直してもらって悪いけど本当は本調子じゃない、どこかたぶん壊れてるんだよね。


遠からずオーラダー様のところへ還るかもしれない……そんな予感がした。


力が戻らない……のかな……ねむい…眠くてしかたない……



衣擦れと足音が近づいてくる。


起きて逃げないとかな? でも、身体が動かない、目が開かない。


『オーダウエ様、このような辺境で何をされているのですか?』

誰かが話してる……穏やかそうな男性の声だ。


私……寝てるのになんで聞こえるんだろう?


『……ここで、その名前を呼ぶな。』

どっかで聞いたような声だな……

『もうしわけございません、でも、なぜ、このような所に? 』

最初の……男性らしい声が言った。

『もちろん、愛しい人……愛しい、オレの聖剣がいるからだよ』

聞き覚えのある声が言った。


聖剣は私ですが……そんな恋愛相手はいません、なんせ隠居なもので、お間違えでは?


『その聖剣はお使いにならず、邪神は戦神様の聖槍セイソウで倒したと言う話しです、聖剣失格なのではありませんか?』

最初の声が笑った。


ああ、そうだよね…役に立たない聖剣なんて、聖剣じゃないよね。


『お前はあの王女のようにこの世界から、消してもらいたいようだな?』

聞き覚えのある方が寒気のする声をだした。


王女? 消した? 恐ろしい事聞いた気がする。


『申し訳ございません』

最初の男性が膝まづいた気配がした。

何度も頭を下げてるらしい地面にスリつけてるのか音が聞こえる。


怖い……逃げたいのに何で……目が開かないんだろう?


『つぎはない、この世界から何も残さず消す』

聞き覚えのある声が言った。


ああ、だれだか、わからない…やっぱり大惚けだよ…。


ごひじをありがとうございますと男性は言って立ち上がって早足の足音が聞こえた……

衣擦れの方は去ったらしい。


しばらくの沈黙……誰の気配もしなくなって私は力をぬいた。


再び眠っていたらしい。

「ウエニアさん、風邪ひくよ? 」

気がつくとギダシア神官に膝枕されていた。

「…なんで膝枕? 」

私は起きようとして……ギダニア神官に……顎を押さえられて……唇にき、キスしやがった。


「ごちそうさま」

ギダニア神官が微笑んだ。

「……ギダシア神官のバカバカバカ」

私は泣きながらギダシア神官の腕を叩いた。

勇者以外されたことなかったのに〜。

それもむりやりだよ~。

「可愛すぎなのがいけないんだよ」

ニコニコしながら私を起こしてついでにまた、キスした。


わーん、油断しすぎ? やっぱり聖剣失格かも?


「まあ、今度、ご飯おごるから、機嫌を直して、『黒猫のワルツ』でいいかな? 」

ギダシア神官が私を抱きしめて囁いた。

「高級レストランだよ?大丈夫なの?」

ギダシア神官だって一般神官だもんお金ないよね。


「大丈夫だよ。」

ギダシア神官が微笑んだ。

デートはいいお店でしないとって呟いてたけど…。


上手く食い逃げしようっと。

その後に食べられる体力ないもん。


そういや、さっきの声……ギダニア神官と似てる……

まさかね? 違うよね、ギダニア神官はエロエロしいけど物騒じゃないもんね。


高級レストラン楽しみだよ。

隠居生活ばんざーい。


「あの高神官様、地方に飛ばされたんですって、なにしたのかしらね? 」

アウル神官が素敵だったのにと小首をかしげた。

「さあ、上の方の事は分かりませんからね」

カスリダ神官がオーラダー様の聖典の数を数えた。

お祈りに信者が使う分らしい。

「まあ、いいんじゃない? 」

ギダシア神官が微笑んだ。


そういえばオダーウエ様とかあの高神官さんらしき人言ってたな。


ま、まさかね……この神殿に勇者なんて……

アハハ夢だよね。


うん、どうか、勇者に見つからないように

平穏無事な隠居生活がおくれますように。

今日も頑張って雑用しますよ私。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 神官様というか勇者様というかやはり神官様がツボですね。溺愛ですよ、溺愛。 [一言] 聖剣に接吻というのは「剣が血に飢えてる」と言いながら刀身を舐めるに近い────訳はなく、すごくラブがつま…
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