動物王国幻想郷第二話 新シリーズ!こうまのばんけん、いぬさくや…………って何このタイトル?
「いや、なにやってんのさ、レミリア」
その珍妙な光景に一瞬、意識が遠のいたがすぐに持ち直して、問いかける。
「わふっ」
「うー! うー! 離れなさいよ! うー!」
「とりあえず、そのうーうー言うのを止めなさい」
「ぬーぬー!」
ダメだこりゃ、と内心呟き良く観察する。うん、犬だ。何がって咲夜の姿が。
「紅魔館にも影響あり……か」
じゃれあっている二人を放置して、地下に向かう。
え? 助けないのかって? レミリアって吸血鬼だよ? 咲夜一匹引き剥がすくらい出来るでしょ。しないってことはじゃれあってるんだと思うよ…………多分。
とりあえず、妖精メイドたちについては無視する方向で行く。個体数が多過ぎてやってられないし。
話は変わるけど、ボクはもう鏡越しにフランと会話とかできないので、暇な時にこちらから紅魔館でフランと会話している。縁に頼めばやってくれるだろうけど、別にその程度のことでわざわざ頼るようなことでもないし、どうせ基本的には暇してるしね。
まあ、そのお陰か今こうして迷わずに図書館まで来れたのだが。
フランと何か話す時はもっぱら図書館だ。フランの部屋でも良いのだけれど、人見知りを直すのに他人の少ない図書館はちょっとしたリハビリになるし、フラン自身の意向でそうなった。
どうも普段からここで慣れるように頑張っているらしい。だから図書館に来ればフランにもパチュリーにも会えるだろう、と検討をつけて図書館の扉を開く。
案の定と言うか、机に座ってフランとパチュリーが本を読んでいるのが見えた。
そして扉を開けた音でこちらに気づいたフランが顔を輝かせ、こちらにやってくる。
「梗! えへへ、今日も遊びに来たの?」
満面の笑みでボクを迎えたフランに、残念ながら今日は別件と伝えると、口を尖らせて文句を言うので二、三度撫でて上げるとまた笑みが戻る。
「こっちは……大丈夫そうだね」
「何が?」
そう言えば、地下の住人は上の状況を知っているのだろうか?
「今日咲夜を見かけた?」
フランを伴い、パチュリーのところまで言って二人に尋ねると、首を振る。
「なるほど……んー、そうだね。パチュリーなら何か分かるかもしれないし、ちょっと連れてくるから見てくれないかな?」
「咲夜がどうかしたの?」
心配そうな顔でフランが聞いてくるので、大丈夫、とだけ言っておく。
「……うちのメイド長のことだから、仕方ないわね。力を貸しましょう」
少しだけだが、心配そうなパチュリー。多分本人は無表情を保っているつもりだろうけど、目が揺れている。隠し切れない感情がそこにあった。
「別に命に関わる、というわけではない……と思う。良く分からないから何とも言えないけど」
タマちゃんが何も言わなかったから多分大丈夫なんだと思う。直感的にそこまでの大事ではないと感じたんだろうね。本当に便利そうだよねえ、あの第六感。
「…………そう」
ほぼ無表情から零れる安堵の息。何だかんだで薄情でも無いのかもしれない、魔女と言っても。
「わふ」
「…………………………」
「咲夜可愛い!」
「フラン、私にも抱かせて」
というわけで連れてきました。
無言のまま、けれど目を丸くして硬直したパチュリーと凄く良い笑顔で咲夜を抱っこするフラン。
そして何故かそれを羨ましそうにするレミリア。
「っていうか、レミリアさっきは離しなさい、って言ってなかったっけ?」
「それはそれ、これはこれよ」
フランが抱っこしてる姿見て羨ましくなったんだろうか? 子供みたいだねえ。
「それでパチュリー、どう?」
「…………分からないわね、悪いけれど」
そっか、とだけ呟く。別にパチュリーが悪いわけでもない、正直分かればラッキーくらいだったし。それに勝手に期待しておいて落胆するのは失礼だしねえ。
「因みにだけど…………うちの霊夢も猫になってる」
「なんですって!?」
一瞬にして反応したレミリア。って、なんでキミ?
「出かけるわよ、咲夜! …………って咲夜は今」
「わふ!」
レミリアの声に反応して、日傘を取り出す咲夜(犬)。
「って、今どこから出したの!? 体積的にあり得ない大きさの物体が出てきたよ?」
咲夜、約三十センチくらい。日傘、約七十センチくらい。どう考えても隠すのは無理な大きさのものが、今出てきたよ……?
「さすが咲夜ね……こんな状況になっても私の要求を叶えるなんて、瀟洒だわ」
「わふ!」
ちょっと誇らしそうに胸を張る咲夜(犬)。いや、そういうことじゃ……もういいか。
「ふう……全く、神社に来るのはいいけど、面倒起さないでよ? ボクはもう行くから」
「あ、梗! 私も一緒に行きたい!」
と言ってきたのはフラン。けれど…………うーん。
「良いの? レミリア」
シスコンな姉に聞いてみると、意外にも了承する。
「良いのよ……フランの世界は今はもう館よりも広がっているのだから。後は本人の好きにさせるわ」
大人びた顔でそう言う。こういうところ見るとやっぱ姉だな、って思う。
レミリアも成長してるんだな、と思わされる。昔、神社に来ようとしたフランを引き止めてフランに逃げられた人と同一人物だとは思えないよ。
「けどね、フラン。一つだけ約束して…………ちゃんとここに、この館に帰ってきて。あなたの家は、ここなのだから」
「うん、ありがとう、お姉様!」
なんでちょっと外出するだけでこんな感動巨編みたいな会話してるんだろうね、この姉妹。
やっぱりシスコンはシスコンだったか。まあ家族中が良いのは、良いことだろうけどねえ。
最近は神社も何だかんだで霊夢も縁に気を許しているし。
やっぱ、幸せだなあ。って…………そんなこと思っちゃうんだ。
「……………………………………」
「やあ、また来たのかい?」
「…………………………」
「そうかい。それは何よりだねえ」
「………………………………」
「いやいや、そんなことないさ」
「…………………………」
「ふふ……そうだねえ」
「…………………………」
「そうかいそうかい。なら頑張らないとね」
「……………………」
「え? …………そうだね。まあいいさ」
「…………………………」
「ああ、せいぜい傍観者として楽しませてもらうさ」
「………………ぃ?」
「おや、誰か来たようだね…………じゃあね」
「…………………………」
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