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東方鏡霊記  作者: 雪代
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東方鏡霊祭EX六話 霊夢の口撃、縁は9999のダメージを受けた。縁は倒れた。






 天啓、と言う言葉がある。神などの超自然物から与えられたお告げを意味する言葉だけれど、突然のごとく沸いて出る閃きに対する形容詞にもなる。

 そう、龍神なんて言う存在なボクが言うのもなんだけど、それは正しく天啓。

「縁のところに行こう」

「…………は?」

 タマちゃんが何言ってるんだこいつ? みたいな視線でボクを見つめる。

「なんだか分からないけど、面白いものが見れる気がする」

 いわゆる直感。長生きだけあって、ボクは運が良い。こういう直感も割かし当たる。

 だからタマちゃん……ああ、もうこいつ頭がダメなんだな。って顔で見ないでくれるかな?

「とにかくそういうことだから、行くよタマちゃん」

 そう言ってタマちゃんの手を取り走りだすボクに。

「な、ちょ……待っ」

 突然過ぎて為すがままになっているタマちゃん。

「…………あいつら、何やってんだ?」

 そして神社には茶を啜りつつその様子を冷めた様子で見ていた魔理沙だけが残っっていた。





「ざーんねん」

 そんな言葉が聞こえた。

 そして徐々に数を増やして行く弾幕を見て。

「嘘……ここから増えるの!?」

 最悪の事態が脳裏を過ぎった。

「そう、ここから増えて後二十秒だよ、頑張ってね」

 聞いた瞬間、体から力が抜けそうなのを堪える。

 二十秒!? この状態から!!?

 すでに周囲は弾幕で埋め尽くされている。この状態で後二十秒など……。

「つまり……最初からある程度意識的に誘導しないといけないのね……」

 時々こんな弾幕があるのは知っているが、まさか弾幕ごっこが初めてな素人がこんな弾幕を使うとは思ってなかった。

「…………遊び……遊びね……」

 最初に言われたその言葉に騙された。

 いや、向こうは騙していた心算など無かったのだろうが…………。

「梗と同等ぐらい強さの遊びだった、ってことね」

 勘違いしていたのは相手の強さ。

 推測するに縁の実力は梗と同等かそれに近いのだろう。

 梗と同じレベルの存在の遊び……そんなのもの、こちらは全力で挑まないと勝負にならない。

 だから……意識を切り替える。遊びから、戦いへと。


 意識を切り替えるといっても、要は気持ちの問題、意識の差に過ぎない。

 けれど、この幻想郷において…………その差はとてつもなく大きかった。



 急激に視界が広がったように感じる。

 勿論ただの気のせい。ただ『見る』ことに意識を裂いただけの話。

 けれど、見えたものは随分と違っていた。

 弾幕の隙間を潜り、跳ね返ってくる弾幕から次々と逃れて行く。


 そして。


「ブレイク……かあ。いきなり動きが良くなったね」

 宣言通り、きっかり二十秒でスペルの効果が切れた。

「じゃあ……残り二枚。精々楽しんでいこうか…………スペルカード」

 宣言と共に現れたのは一冊の本。表紙の真っ黒なその本は宙に浮き、かたかたと震える。


 鏡界童話「怪奇ジャバウォック」


 本が独りでに開き、そして開いた本から真っ黒な弾幕が飛び出す。そして弾幕を出すだけ出すと、ふっと消える。

 数百数千の弾幕が列をなし、巨大な帯のように長くなって霊夢へと向かう。

 当然霊夢とてただ黙って当たるのを座して待つほど愚かではない、すぐさま回避行動を取ろうとして。

「っ!?」

 自身より一瞬早くその動きに合わせてきた弾幕に驚愕する。

 追尾弾幕自体は実は対して珍しくも無い。霊夢の霊符「夢想封印」を始めとして、霊夢自身もいくつか知っている。

 けれど、こちらの動きを予測してそれに対応する弾幕など見たことが無かった。

 幸いと言うか、対応するのは一度だけのようで、もう一度回避行動を取れば回避は出来た。弾幕の帯が流れて行き…………背後で消える。

 そしてまた現れた本から弾幕が帯となって霊夢へと向かってくる。それを見た直後、さらに一本、弾幕の帯が本から出てくるのを見た時に気づく。

「避けるたびに増えるの……?」

 舌打ちする。正直、十本以上出てこられると避けれる気がしない。もしかすると二回目にも対応してくる弾幕も出てくる可能性もある。

 さきほどから驚かされっぱなしなので、もうどんな可能性でも考えるべきだと思った。

 あれを避けるにはそれこそ切り札を切るしか…………。とそこまでの考えを捨てる。

「……………………いけない」

 思考がすでに後手に回っていることに気づく。考えるべきは対応策ではなく積極策。

 避けるのではない。

「全部撃ち落して、相手を倒す」

 霊には逃げることなんて一度も教わらなかった。

 そうだ…………忘れてはならない。

「博麗の巫女は…………負けてはならない」

 だったら今すべきことは一つ。

「カード宣言」


 神霊「夢想封印 瞬」


 一箇所に止まっていては相手の弾幕に狙われるばかり。だから動くことと攻撃すること、これを両立させる。

 結界を展開。そしてお札を続々と投げながら移動。そして結界の力で空間移動。

 やってることはと二重結界の類とそんなに違いは無い。

 結界によってお札を転移させるか自身を転移させるかの違いだ。


 転移しながら投げたお札が縁へと迫る。

「ふふ……これも耐久だからボクには当たらな……」

「誰があんたに投げたって言ったのよ」

「……え……?」

 初めてその笑みを崩した縁、そしてその驚きの表情にしてやったり、と内心思いながらお札を投げ続ける。

 お札が貼られたもの……それは本だった。

「嘘……出現してる時間なんて一秒にも満たないのに……、どうやってタイミングを……」

 呆然とした表情で呟く縁にたった一言返す。


「勘よ」


 それを聞いた縁が目を丸くして…………笑い出す。

「あははははは、勘かあ…………理不尽だなあ、さすがというべきか」

 そしてまたニィ、と笑って。

「そっか…………これで最後だ。最後まで楽しもうよ…………スペルカード」


 「泡沫の夢の結末」




 膨らんでは破裂して…………そして空に消えて行く。


「…………カード宣言」


 それが…………泡沫うたかたの夢の。


 「夢想天生」


 …………終焉けつまつだった。



「夢の終わり…………」


 つまり。


「目覚めの時間よ」


 縁の全身に突き刺す無数の術符…………つまり、それが結果だった。






 疲れた…………それが地に降り立った霊夢が最初に思ったこと。

「疲れた…………そんな風に思った?」

 そう尋ねるのは、今倒したばかりのはずの少女、雪代縁。

 ところどころ被弾したような衣服の破れがあるものの、本人はまるで無傷だった。

 しかもまだ余裕すらありそうな表情に思わず溜息を付きたくなる。

「いやあ、楽しかったよ。さすがだねえ、梗が選んだだけのことはある」

 梗が選んだ……と言うくだりで微かに喜んだのは秘密で…………。

「おや、やっぱり梗に関することだと感情が出やすいね、今喜んでるでしょ」

 …………秘密にできなかったようだ、と言うか自分はそんなに分かりやすいのだろうか。

「そんなことないよ、ボクが感情に聡いだけ」

「…………心を読まないでくれる? あんた覚妖怪か何か?」

 睨んでは見るが、ふふ、と余裕そうな笑みで流される、それがまた癇に障って……。

「ボクのこと嫌い?」

「嫌いよ」

 咄嗟に聞かれた質問に、思わず正直に答えてしまった。

 しまった、と言ってから後悔する。仮にも同じ宿に住む相手だ、こんなこと言うつもりは無かったのに。

「いや、別に気にしなくて良いよ。と言うか」


 今回のことも全部、キミの本音を聞くためだけにやったことだし。


「……………………………………は?」

 一瞬、何を言っているのか理解が追いつかず、間の抜けた声が出る。

「だーかーらー。鏡界と博麗結界弄ってキミたちがここに来るように仕向けた辺りから全部ボクの仕業」

 歯を剥き出しに笑う縁に、一瞬本気で殺意が芽生えそうになったが、何とか抑える。

「…………なんでそんなこと」

「だーかーらー。キミから本音が聞きたかったんだよ。だって、普段なら絶対に口を割りそうにないし」

 実際、言っちゃったでしょ? と快活に笑う縁に。

「………………ふ……ふざけんじゃないわよ!!!」

 いい加減、自分はキレてもいいだろうか。




「ほら、面白いもの見れたでしょ?」

「…………いや、悪趣味だってんですよ」

 霊夢が縁に怒鳴っている光景を見て、ボクは笑う。

「霊夢があんなに感情むき出しに叫ぶ場面なんて、珍しいと思わない?」

「いや、思うってんですけど…………縁もまた意地が悪い」

「ふふ、タマちゃんの言ったとおりだったね」

 縁はボクよりずっと性格が悪いみたいだよ。




「ぜーはーぜーはー」

 散々怒鳴って、息切れを起している霊夢と、それでも笑顔を崩さない縁。

「…………うーん、予想以上に怒らせちゃったねえ。キミはもっと冷静な人間かと思ってたけど、ボクの読み違いかなあ?」

 いい加減その表情を崩してやりたいと思考を回し。

「…………あんたって梗の親なのよね?」

「……ん? うん、そうだねえ」

「…………ふ、ふふふ」

 そして悪魔の言葉が閃く。

「どうかしたの?」


「ううん、何でもないわよ。()()()()()()?」


「ぐはぁっ!!?」


 霊夢の口撃、縁は9999のダメージを受けた。縁は倒れた。


 縁は目の前が真っ白になった。


 一人の少女が地に倒れ伏したその時。


「あ、縁が吐血して倒れた」

「ちょ、大丈夫だってんですか!?」

「まあ、大丈夫じゃない? 神様だし」


 などというやりとりがその背後であったとか。




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