東方鏡霊祭EX四話 鏡の国のお姫様……お姫様って柄でもないよね、縁は。
「スペルカード」
童符「迷い込んだ少女」
縁から放たれる弾幕が規則正しく並んで行き、周囲一帯に弾幕の迷路を作り出す。
「動け」
そして縁の一言により、巨大な弾幕の迷路が動き出す。
「動くのかよ……この巨大な弾幕がか!?」
魔理沙が瞠目するが、さすがに弾幕勝負は慣れたもので霊夢と共に移動する迷路に被弾しないように横にずれながら迷路の中の通路を抜けて行く。
「……ふふ、さすがにこれくらいは問題ないか…………なら」
出発。
その言葉と共に、迷路の最後尾から巨大な弾幕が放たれ、通路の空間を潰しながら迫ってくる。
「おいおい…………これじゃ、行き先間違えたら戻ることもできなくなるぜ」
ところどころ道の分かれた通路を見ながら魔理沙が呟いて……。
「霊夢…………道案内頼んだぜ」
先に飛ぶ霊夢にそう言って笑った。
「あのねえ…………私が間違えたらどうするのよ」
呆れたような声でそう言う霊夢に、魔理沙が。
「間違えたらマスパで弾幕ごと全部吹っ飛ばせば良いだけだぜ」
良い笑顔でそう答えた。
弾幕の迷路を迷い無く抜けてくる二人を見て縁が笑う。
「さすが……というべきかな?」
実を言えばどの道を通っても、最終的には抜けれるように作ってあるのだが、それでも後ろが詰まってきている状況で道が二本に分かれれば誰だって迷う……そのはずだったのだが。
「迷い無く突っ込んでくるね」
分かれ道に迷うことなく進む二人を見て苦笑いする。
やっぱり物語の最初じゃ少女は兎を捕まえることはできないか……。内心呟き、そして。
「突破……されちゃったか」
二人が迷路を抜け切り、こちらへと向かってくる。それを見、ニィと笑って。
「なら次だね…………スペルカード」
迷うことなく次の符を宣言する。
歩兵「代役ポーンの大行進」
縁の周囲に小弾が大量に出現し、整列した状態で霊夢たちへと飛ぶ。
「このくらいなら」
問題なさそうに余裕を持って避けた二人だったが、その二人を追いかけるように弾幕が戻ってくる。
「追尾!?」
「厄介だぜ! 撃ち落すぜ! カード宣言」
恋符「マスタースパーク」
大出力の砲撃によって弾幕の群れを一気に撃ち落そうとした魔理沙だったが。
砲撃を避けるかのように群れが二手に分かれ、砲撃をやり過ごしてまた二人に向かう。
「「避けた!?」」
さすがにこの事態は予想してなかったのか、瞠目して思わず動きを止める。
「避けたんじゃないさ、ただ時間経過で二手に分かれるだけだよ」
魔理沙の砲撃を避けたのは偶然…………まあつまり。
「運が悪かったね……普通の魔法使いさん」
その言葉で、魔理沙が目を見開いた。
運の良し悪しは記憶の積み重ねだ。人の記憶ではなく、世界の記憶。
つまり、歴史の長さと置き換えても良い。
第三の層、記憶の層は最も干渉されにくい層だ…………故に最も平等な世界だと言える。
時間の多少こそが運の絶対量となる。これは動かしがたい真理だった。
だからこそ、ボクは運が良い。
この幻想郷で最も長く生きているだろう梗の同一存在であるボクだからこそできる裏技。
平等の裏に隠された反則。この世界に刻まれた梗の歴史は全てボクの歴史でもある。つまり、ボク自身がまだ二十にも満たなくてもその歴史は一億数千年分。運もまた同じである。
さて、一つ話しを変えようか。
霊夢は非常に運と勘が優れている。勘が良く当たるのは運が良いから、だとも言える。
だとすると霊夢は非常に運が良いことになる。
運の絶対量が記憶の蓄積量である、これは絶対の真理だ。
では、霊夢は何故他の人間と比べて運が良いのだろうか?
答えは別のもので運に補正をつけているから。
歴史のあるものにこそ運が宿る。ならばその歴史のあるものを普段から身近に置けば自身の運にも変化がある。
言ってしまえば、運を自身に加算するとでも言えばいいのか。
霊夢の役割、博麗の巫女と言うのは梗の記憶で見るに凡そ千年以上の歴史がある役職である。
世界の記憶は無形のものにも宿る。当然、博麗の巫女と言う役職にも。
外の世界で例えるなら歴史の長い学校の校長になったとしよう。そうした人物は前任者たちの受け継いできたその役割に多少なりとも重責を覚えるだろう。逆に歴史の浅い学校の校長ならば多少なりとも気が楽になるだろう。
その違いが記憶の蓄積の違い。その名に積み重なったものが多いほど、その重みを感じ取る。
では千年以上続いてきた博麗の巫女と言う役職にかかる重みとは一体どれほどの物なのか。
けれど霊夢はそんな重圧を感じさせない……いや、感じないのだろう。空を飛ぶ程度の能力と言うその能力によって重圧から解き放たれているのだから。
そしてその重みと共に付くもの……それが運。
霊夢の運が特別高いのは、幻想郷の中でも特別長く続く役職にいるからだ。霊夢本人の資質もあるのかもしれないが、最大の要因はそれだと思われる。
では、話を戻して……魔理沙の使う魔法とは、運が最大の要素となる。
その他にも必要とするものはあるが、最大の要素はこれだ。
だから運が悪いなどと言う言葉は魔法使いにとって忌避したい言葉だろう。
そして。
概念的技法である魔法に、その言葉はひどく響く。
言葉はそれ自体が力を持つのだから。
力が出ない。
それに気づいたのは、縁が言った「運が悪い」という言葉の直後。
マジックミサイルを撃とうとして、自身の想像よりも遥かの弱った魔法に目を見開く。
「どういうことだぜ…………」
「魔法は運が最も強く作用する。けどキミの運は悪い……つまりそういうことさ」
だからと言ってここまで急激に変わるものだろうか…………自身にとっての絶対、即ち魔法に関する異常だったので思わず思考に没頭してしまい。
「残念、魔理沙はここで終了……だね」
そんな言葉が聞こえた直後、背後から迫っていた弾幕に飲み込まれ……自身は気を失った。
「魔理沙!!」
意識が落ちる寸前、霊夢の似合わない慌てた言葉が聞こえた気がした。