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東方鏡霊記  作者: 雪代
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東方鏡霊祭EX三話 みんな色々考えてるんだねえ。







 梗をやりすごした二人は鏡界に映る外の世界の景色を眺めながら宛ても無く進んでいた。

 非常に広く見える鏡界内。故に二手に分かれてみたりもしたが、どうやら決められた道を進まないと戻されることに気づき、以降霊夢の勘に従って進む。

「便利だよな……お前の勘」

「って言っても、当たるも八卦、当たらぬも八卦ってところだけどね」

 そうは言うが、実際かなりの精度で的中する霊夢の勘は侮れない、と魔理沙は思っている。

 魔理沙が思考にふけっている間に、霊夢が一つの建物の前で止まる。

「…………ここね」

「勘か?」

「勘よ」

 端的なやりとりを終え、なら信じてみるか、と魔理沙が呟き建物の敷地へと入る。

 そこは塀に囲まれ、外見はやや寂れていた。建物のところどころ壁のペンキが剥げているし、そうでなくてもすすけていてどことなく古びた感じがする。

 建物自体は周囲と比べてやや大きく、さらに敷地の中には庭のようなものもあり、そこに良く分からない玩具のようなものが置いてある。

 外の世界に詳しくない二人だったし、幻想郷にもこんな感じな場所は無い。だからここがどんな場所なのか良く分からない…………けれど。

「なんかおかしいぜ」

「空間が歪んでるわ」

 敷地に一歩入った時点でそこが異様であることに気がついた。塀より内側、つまり敷地内の空間が拡張されている。霊夢は結界の巫女だけあってすぐに気づいたし、魔理沙も何かおかしいことには気づく。

「とりあえず当たりみたいだぜ?」

「なら行きましょう」

 そして建物の中を目指そうとして。


「やあ、いらっしゃい」


 微笑む彼女の姿はやはり親子だと言うだけあって、梗のそれに良く似ていた。

 建物の屋根、幻想郷には無い平らな屋根の端に座った状態で彼女、雪代縁がそう言った。





 博麗霊夢にとって、雪代縁に対する感情を表すなら戸惑いだった。

 決して嫌っているわけではない。けれど彼女は自身の親代わりの梗と同じ顔で同じ声で同じ表情で自分に話しかける。

 けれど彼女と梗は別人だ。それがどうしても戸惑ってしまう。

 簡単に言えば距離感を測り損ねていた。

 梗が縁と仲が良かった(親子なのだから当たり前なのだが)のもこの不安定な距離感の一因であった。

 いっそ不仲であってくれれば、完全な他人として決別してしまえるのに……。

 けれど梗と縁は家族だった。そして自分と梗もまた家族。

 けれど、自分と縁が家族かと言えばそれもまた違う気がして。

 結局、霊夢にとって縁は、他人でも無ければ家族でも無いと言うなんとも不安定な関係の人物だった。


 霧雨魔理沙にとって、雪代縁に対する感情は嫉妬だった。

 と言っても霊夢ほどは複雑な感情を抱いてはいない。それは、魔理沙自身の性格か、はたまた最初から魔理沙と梗が他人であったからか。

 けれど、思うところが全くないと言えばまた嘘になる。

 梗が全てを投げ捨てても…………あの霊をすら捨ててでも取り戻そうとした人間。

 梗が向ける全幅の信頼が、最高の親愛が、最大の愛情が…………少しだけ、ほんの少しだけ羨ましいと言えば嘘になる。

 いつか師に問われた「お前は梗が好きか?」と。それに自分は「嫌いなはずが無い」と答えたが、今の自分ならこう答える。

「大好きだぜ」

 と、だから嫉妬してしまうのだろう。

 梗が縁に向ける感情を、少しでも自分にも向けて欲しいと、そんなことを思ってしまうのだろう。

 結局、魔理沙にとって縁は、梗が一番好いているちょっと羨ましいやつ、ということになるのだった。




「それで、キミたちは何しにきたの?」

 優しく微笑むその表情に、一瞬呆けてしまうがすぐに用件を思い出し、梗から聞いたことをそのまま伝える。

「うん、なるほどねえ…………そういうことなら後で直しておくよ」

「……後で?」

「うん、後でね。それよりも先に…………ふふ」

 とてもじゃないが、忙しそうには見えないのに何故今ではないのか。ふと気になって霊夢が尋ねる。それに対して、意味深な笑みで返す縁に霊夢はまた何か嫌な予感がした。

「……ふふ、ねえ霊夢。スペルカードルール……だっけ? キミが作ったの?」

「…………ええ。そうよ」

 正確にはルールの元のようなものを考え、スペルカードと言う術式を作ったのが自分と言うだけで、広まっているスペルカードのルールは霊夢が作ったルールを元にその他の妖怪たちなどが考えたものだ。

「ふうん。ボクは中々気に入ったよ、これ」

 この言葉で、霊夢は自身の予感が正しかったのだと理解する。なるほど、たしかにこの二人……親子だな。と実感した。


「ちょっとボクと遊ぼうよ……主役さんたち?」


 そう言って、鏡神、雪代縁は不敵に笑った。








「ねえ…………タマちゃん」

「はい?」

 三人が逃げ出した後、そろそろ神社に帰ろうか、と考えていたところにやってきたタマちゃんと合流し、二人で神社への帰路に着く。

 そしてその途中、ふと気になったことを訊いて見る。

「タマちゃんにとって…………縁ってどんな存在?」

 縁は今、博麗神社に住んでいる。自分としては良いことなのだが、霊夢は戸惑っていた。

 霊夢はあれで自分が巫女であることの自覚を持っている。だからボク(縁いない時くらい戻してもいい気がする)を慕っている。それに昔からタマちゃんと二人で育ててきたから親として好かれている分も多少はあるだろうね。

 でもだからこそ、ボクと同じ存在である縁の扱いに困るのだろう。

 家族とするか、他人とするか、その線引きが難しい。特にボクが縁を家族としてしまっているから尚更簡単には答えが出せない。

 実を言うと今すぐにでも落とせる簡単な落しどころはあるのだけれど、それをすると縁が傷つくだろうから、出来ればお互いの間で解決して欲しいと思う。思ってたより縁が女の子してるから、余計に言え無い…………ボクの母親だから、霊夢のお婆ちゃんだと思えばいい、だなんて。絶対に言え無い。ましてや縁はまだ二十歳にもなってないのだから。

 だから霊夢は霊夢で何とかして欲しい。出来ればこの事実を言わせないで欲しい。

 そして、そうなるともう一人気になる存在がいる。

 それがタマちゃんだった。

「縁はね、私の親だ。だから私個人としては出来れば仲良くなって欲しいと思ってる。けど霊夢みたいに戸惑うのも仕方ないとも思ってる」

 本来ならボクがいなくなって開いた場所に縁が入り込む予定だったんだけれど、だからこそボクも限りなく縁が受け入れられるように振舞ってきたんだけれど…………。

 結局のところ、ボクが生き残ったのがボクの最大の誤算なんだよね…………まあ嬉しいから良いんだけど。

「縁……あの人は…………うーん、なんだってんでしょうね。でもまあ、梗様の親だってんですから……出来れば私もあの人とは家族になりてえとは思ってるってんです…………けど」

「……けど?」

「あの人は…………梗様と同じ顔してるってんですけど、梗様より性格悪いんで苦手だってんですよ」

 けど、の部分でシリアスな理由を覚悟したんだけど、想像以上に可愛い理由に少し笑ってしまった。

 笑ったことに怒るタマちゃんの頭を撫でて落ち着かせながら、なるほど、と考える。

「性格が悪い……か……ぷっ……くく、あはははは」

 ダメだ、笑ってしまう。

 霊夢もこれくらい割り切ってくれればいいのにな、と思いながら二人で帰路を歩いた。



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